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裁量労働制で残業代は出ないのか──条文がみなすのは「時間」だけで、労働基準法38条の3と38条の4を確かめた

「裁量労働制だから残業代は出ない」。

転職先の求人票にこの制度名が書かれていると、給与の見方が一気に分からなくなります。

この記事は、その制度が条文で何をみなしているのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、人事コンサルの解説も使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている労働基準法の条文だけです。

先に結論を書きます。

条文がみなしているのは『労働した時間』だけです。深夜の割増賃金は第三十七条第四項が別の条件で命じており、みなし時間の話とは切り離されています。

条文の確認日は2026年9月17日です。

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裁量労働制は条文が2本あり、専門業務型と企画業務型に分かれます

検索されている問いの答えを先に置きます。

1本目が第三十八条の三です。

労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。

(出典:労働基準法 第三十八条の三第一項)

2本目が第三十八条の四です。

当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。

(出典:労働基準法 第三十八条の四第一項)

条文通称導入に必要なもの
第38条の3専門業務型過半数組合または過半数代表者との書面による協定
第38条の4企画業務型労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決と、行政官庁への届出

どちらも最後は『労働したものとみなす』で終わります。

みなされるのは時間であって、賃金ではありません。

裁量労働制がみなしているのは「労働時間」だけです

第三十八条の三の効果の部分だけを抜き出します。

第二号に掲げる時間労働したものとみなす。

(出典:労働基準法 第三十八条の三第一項)

そして、その第二号の中身はこう書かれています。

対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間

(出典:労働基準法 第三十八条の三第一項)

条文の言葉は『労働時間として算定される時間』です。

実際に働いた時間が何時間であっても、算定上はこの時間として扱う、という書き方になっています。

賃金の支払いを免除する、とはどこにも書かれていません。

裁量労働制でも、深夜の割増賃金は第37条第4項が命じています

割増賃金の条文を見ると、深夜だけは別の条件で書かれています。

使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第三十七条第四項(時間外、休日及び深夜の割増賃金))

この項が支払いの条件にしているのは、時刻です。

  • 午後十時から午前五時までの間において労働させたこと
  • (厚生労働大臣が必要と認める場合は、地域や期間により午後十一時から午前六時まで)
  • 割増率は、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上

みなし時間が何時間かという話は、この項の条件に入っていません。

深夜に働いたという事実だけで、この項の条件はそろいます。

求人票に裁量労働制と書かれていても、深夜の勤務がある職種なら、ここを確かめることになります。

裁量労働制の専門業務型は、協定で6つの事項を定めることが条件です

第三十八条の三第一項が並べている事項は6つです。

  • 対象業務(業務の性質上、遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、就かせることとする業務)
  • 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
  • 遂行の手段および時間配分の決定等に関し、具体的な指示をしないこと
  • 労働時間の状況に応じた健康および福祉を確保するための措置を、協定の定めにより使用者が講ずること
  • 苦情の処理に関する措置を、協定の定めにより使用者が講ずること
  • そのほか、厚生労働省令で定める事項

3つ目の条文はそのまま読む価値があります。

対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。

(出典:労働基準法 第三十八条の三第一項)

具体的な指示をしないこと、が協定の内容として条文に書かれています。

日々の進め方を細かく指示されている状態は、この条件から外れます。

なお、対象業務の一覧そのものは厚生労働省令に預けられていて、条文本体には書かれていません。

裁量労働制の企画業務型には、本人の同意が条文に書かれています

第三十八条の四第一項の第六号は、同意について正面から書いています。

使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

(出典:労働基準法 第三十八条の四第一項)

同意しなかったことを理由とする解雇その他不利益な取扱いは、条文が禁止しています。

対象になる業務も、第一号に書かれています。

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務

(出典:労働基準法 第三十八条の四第一項)

対象になる労働者の範囲も、第二号が限定しています。

対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者

(出典:労働基準法 第三十八条の四第一項)

入社したばかりで経験を積んでいない段階の人を当てはめる書き方には、なっていません。

裁量労働制の企画業務型は、委員会の作り方も条文が決めています

5分の4という数字を出す委員会にも、条件が付いています。

前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。

(出典:労働基準法 第三十八条の四第二項)

並んでいるのは3つです。

  • 委員の半数は、過半数組合または過半数代表者が任期を定めて指名していること
  • 議事録が作成・保存され、事業場の労働者に周知が図られていること
  • そのほか、厚生労働省令で定める要件

導入した後の報告義務も条文にあります。

第一項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第四号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

(出典:労働基準法 第三十八条の四第四項)

健康・福祉を確保するための措置の実施状況を、定期的に行政官庁へ報告する形です。

入れて終わり、という制度としては書かれていません。

裁量労働制と、休憩・休日・深夜の条文の関係

労働時間をみなす条文は、休憩や休日の条文を消しているわけではありません。

休憩は第三十四条が別に置いています。

使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

(出典:労働基準法 第三十四条第一項(休憩))

そして自由利用の条文もあります。

使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

(出典:労働基準法 第三十四条第三項(休憩))

いずれも条件は『労働時間が六時間を超える場合』『八時間を超える場合』で、みなし時間の制度を除外する書き方はされていません。

深夜の割増と合わせて、裁量労働制でも残る条文として確かめておく価値があります。

裁量労働制について、条文から確かめられなかったこと

この記事で扱ったのは条文に書いてあることだけです。

読んでも出てこなかったものを並べます。

  • 専門業務型の対象業務として厚生労働省令が定める業務の一覧
  • 専門業務型で本人の同意が要るかどうか(第三十八条の三の条文本体には書かれていない)
  • みなし時間を何時間に設定してよいかの上限
  • 健康・福祉を確保するための措置として認められる具体的な内容

これらは労働基準法の条文本体には書かれていません。

個別の事情に当てはめた判断は、事業場を管轄する労働基準監督署または弁護士の領域です。

まとめ|裁量労働制がみなすのは時間で、深夜は別の条文です

条文だけで確かめられたことを並べます。

  • 専門業務型は第三十八条の三で、過半数組合または過半数代表者との書面による協定が必要
  • 企画業務型は第三十八条の四で、労使委員会の5分の4以上の議決と行政官庁への届出が必要
  • どちらも効果は『第◯号に掲げる時間労働したものとみなす』=みなすのは労働時間
  • 深夜の割増賃金は第三十七条第四項が、午後十時から午前五時という時刻だけを条件にしている
  • 企画業務型は第一項第六号で本人の同意を求め、同意しないことを理由とする不利益取扱いを禁止している
  • 企画業務型の委員会は、委員の半数を過半数組合等が指名し、議事録の作成・保存・周知が必要
  • 休憩は第三十四条が別に置かれている

『裁量労働制だから残業代は出ない』という説明は、条文のどこにも書かれていません。

条文が書いているのは、労働時間を何時間として算定するか、という1点だけです。


この記事で使った一次資料

条文の確認日は2026年9月17日です。

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