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パワハラの定義はどこに書いてあるのか──条文に「パワハラ」の語は0件で、労働施策総合推進法30条の2を確かめた

「それはパワハラです」。

転職の理由を説明するときにも、いまの職場で相談するときにも、この一語が使われます。

この記事は、その言葉が法律のどこに、どう書かれているのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、企業の研修資料も使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の条文だけです。

先に結論を書きます。

この法律の条文に『パワハラ』『パワーハラスメント』という言葉は1度も出てきません。条文が置いているのは、第三十条の二第一項の3つの要素だけです。

条文の確認日は2026年9月17日です。

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パワハラという言葉は、条文には1度も出てきません

先に、言葉の所在を確かめます。

e-Gov法令検索が配信しているこの法律の本文を全文検索した結果です。

探した語本文での出現
パワハラ0件
パワーハラスメント0件
パワー・ハラスメント0件
優越的な関係を背景とした言動3件
優越的言動問題4件

条文が使っているのは『優越的な関係を背景とした言動』です。

パワハラという言い方は、この条文を指す通称です。

したがって、条文に当てはまるかどうかを確かめるときは、通称ではなく、この長い言い方のほうを分解することになります。

パワハラの定義に当たるのは、第30条の2第1項の1文です

中心の条文はこれです。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第一項(雇用管理上の措置等))

この1文の中に、判断の材料が3つ入っています。

要素条文の言葉
① 優越性職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
② 相当性の逸脱業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 就業環境への害その雇用する労働者の就業環境が害される

3つは並列ではなく、文としてつながっています。

①の言動であって、②の範囲を超えたもので、その結果として③が起きる、という順序です。

そのため、上司の言動であっても、業務上必要かつ相当な範囲に収まっていれば、条文の形からは外れます。

パワハラの条文が義務づけている相手は、事業主です

もう一度、第一項の主語を見ます。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第一項(雇用管理上の措置等))

そして、義務の中身は末尾にあります。

当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第一項(雇用管理上の措置等))

条文が命じているのは、行為者を罰することではなく、事業主が体制を整えることです。

行為をした個人を直接に処罰する条文は、この法律にはありません。

転職を考える段階でこの条文を使うなら、会社が体制を整えていたかどうかが論点になります。

パワハラを相談したことを理由にした不利益取扱いは禁止されています

相談した側を守る条文は第二項です。

事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第二項(雇用管理上の措置等))

守られる行為は2つ書かれています。

  • 労働者が第一項の相談を行ったこと
  • 事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたこと

2つ目があるため、当事者でなくても、事情を聞かれて事実を述べた人が対象に入ります。

禁止されているのは「解雇その他不利益な取扱い」で、解雇だけではありません。

パワハラの具体的な線引きは、条文ではなく指針に預けられています

どこからが「相当な範囲を超えた」のか。

その答えは条文本体ではなく、指針という別の文書に投げられています。

厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第三項(雇用管理上の措置等))

指針を作る手続も同じ条文にあります。

厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第四項(雇用管理上の措置等))

厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の二第五項(雇用管理上の措置等))

条文を読んでも具体例が出てこないのは、条文がその役割を指針に渡しているからです。

指針の中身そのものは、この法律の条文には書かれていません。

パワハラについて、国・事業主・労働者それぞれの責務も条文にあります

第三十条の三は、関係者の努力義務を並べています。

事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の三第二項(国、事業主及び労働者の責務))

事業主自身についても書かれています。

事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の三第三項(国、事業主及び労働者の責務))

労働者の側にも条文があります。

労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の三第四項(国、事業主及び労働者の責務))

いずれも語尾は『努めなければならない』です。

第三十条の二第一項の『講じなければならない』とは強さが違います。

パワハラの紛争は、通常の個別紛争とは別の道が用意されています

会社の中で解決しなかった場合の道も条文にあります。

第三十条の二第一項及び第二項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第三十条の八までに定めるところによる。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の四第一項(紛争の解決の促進に関する特例))

まず、都道府県労働局長による援助です。

都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の五第一項(紛争の解決の援助))

次に、調停です。

都道府県労働局長は、第三十条の四に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の六第一項(調停の委任))

援助を求めたこと・調停を申請したことを理由とする不利益取扱いも、第三十条の二第二項が準用されて禁止されます。

第三十条の二第二項の規定は、労働者が前項の援助を求めた場合について準用する。

(出典:労働施策総合推進法 第三十条の五第二項(紛争の解決の援助))

パワハラの条文に違反した会社に対して、法律が用意しているのは公表です

罰則を探すと、この法律では別の形になっています。

厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。

(出典:労働施策総合推進法 第三十三条第一項(助言、指導及び勧告並びに公表))

そして、勧告に従わなかった場合です。

厚生労働大臣は、第三十条の二第一項及び第二項(第三十条の五第二項及び第三十条の六第二項において準用する場合を含む。第三十五条及び第三十六条第一項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

(出典:労働施策総合推進法 第三十三条第二項(助言、指導及び勧告並びに公表))

条文が置いているのは罰金や懲役ではなく、公表です。

第三十条の二第一項・第二項に違反していることが前提になっています。

パワハラについて、条文から確かめられなかったこと

この記事で扱ったのは条文に書いてあることだけです。

読んでも出てこなかったものを並べます。

  • 『業務上必要かつ相当な範囲』の具体的な線
  • 厚生労働大臣が定める指針の中身と6類型
  • 就業環境が害されたと言えるかどうかの判断の仕方
  • 行為をした個人に対する責任の追及の方法

これらはこの法律の条文本体には書かれていません。

個別の事情に当てはめた判断は、都道府県労働局または弁護士の領域です。

まとめ|パワハラの定義は条文の1文に収まっています

条文だけで確かめられたことを並べます。

  • 『パワハラ』という語は、この法律の本文に0件
  • 定義に当たるのは第三十条の二第一項の1文で、要素は優越性・相当性の逸脱・就業環境への害の3つ
  • 義務を負うのは事業主で、中身は相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置
  • 相談したこと・事実を述べたことを理由とする不利益取扱いは第二項が禁止
  • 具体的な線引きは第三項の指針に預けられている
  • 第三十条の三は国・事業主・労働者の努力義務
  • 紛争は第三十条の五の援助と第三十条の六の調停へ進む
  • 違反への対応は第三十三条の助言・指導・勧告と、従わない場合の公表

条文に当てはめるときは、『不快だったか』ではなく、『業務上必要かつ相当な範囲を超えたか』が軸になります。

この言い方は条文の中にあるので、相談の場でもそのまま使えます。


この記事で使った一次資料

条文の確認日は2026年9月17日です。

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