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転職した年の年末調整はどうなるのか──所得税法第190条と国税庁タックスアンサーで確かめた

「転職した年は年末調整ができないから、自分で確定申告するしかない」。

転職の話をしていると、この一言はかなりの頻度で流れてきます。

この記事は、その話が所得税法の条文と国税庁の説明の上でどこまで成り立つのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている条文と、国税庁がタックスアンサーとして公開している説明だけです。

先に結論を書きます。

年内に転職して年末まで新しい勤務先に勤めているなら、年末調整を行うのは新しい勤務先で、そこには前職が支払った給与も合算されます。

根拠は所得税法第190条と、その第1号が呼んでいる所得税法施行令第311条です。

条文と国税庁ページの確認日は2026年9月16日です。

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転職した年の年末調整は、年末まで勤めている転職先が行います

まず、年末調整という手続きが条文で何と書かれているかを押さえます。

所得税法第190条が年末調整の本体です

給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(略)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。

(出典:所得税法 第百九十条(年末調整))

読みどころは3つです。

1つ目は、対象が「給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者」に限られていることです。

2つ目は、行うタイミングが「その年最後に給与等の支払をする場合」だと書かれていることです。

3つ目は、中身が源泉徴収した所得税の合計額と本来の税額との「過不足」の精算だということです。

⇒ 年末調整は給与の支払者が行う精算であって、働いた側が申請して受けるものではありません。

国税庁は「年の中途で就職し年末まで勤務している人」を対象に挙げています

国税庁のタックスアンサーNo.2665は、12月に行う年末調整の対象者をこう書いています。

12月に行う年末調整の対象となる人は、会社などに1年を通じて勤務している人や、年の中途で就職し年末まで勤務している人(青色事業専従者も含みます。)です。

(出典:No.2665 年末調整の対象となる人|国税庁)

転職して年末まで勤めている人は、この「年の中途で就職し年末まで勤務している人」に当たります。

⇒ 転職したこと自体は、年末調整の対象から外れる理由として条文にも国税庁の説明にも出てきません。

転職前の会社が払った給与も、転職先の年末調整に合算されます

ここが「転職すると年末調整ができない」という話とぶつかるところです。

第190条第1号のかっこ書きが前職を呼び込んでいます

その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。

(出典:所得税法 第百九十条 第一号)

「他の給与等の支払者」が、転職前の勤務先に当たります。

その前職が払った給与のうち「政令で定めるもの」を含めて計算する、と条文が書いています。

政令の中身は所得税法施行令第311条です

法第百九十条第一号(年末調整)に規定する政令で定める給与等は、同号に規定する他の給与等の支払者が同号に規定する居住者に対して支払うべき給与等のうちその年一月一日から当該支払者が法第百九十四条第一項(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する主たる給与等の支払者でなくなる日(略)までの間に支払うべきことが確定した給与等とする。

(出典:所得税法施行令 第三百十一条(再就職者等の年末調整の対象となる給与等))

合算されるのは、その年1月1日から、前職が主たる給与等の支払者でなくなる日までに支払うことが確定した給与です。

⇒ 転職先は、自分が払った分だけでなく前職が払った分も足して、1年分の税額を計算することになります。

国税庁のタックスアンサーNo.2668も、同じことを平易な言葉で書いています。

例えば、年の中途で就職した人が、就職前にほかの会社などで給与を受け取っていた場合には、前の会社などに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していれば、前の会社などの給与を含めて年末調整をします。

(出典:No.2668 年末調整の対象となる給与|国税庁)

条件として「前の会社などに『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を提出していれば」と書かれている点は見落としやすいところです。

転職先の年末調整の入口は、給与所得者の扶養控除等申告書です

この申告書を出していない人は、条文の側で年末調整の対象に入りません。

提出の期限は所得税法第194条に書いてあります

国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該給与等の支払者を経由して、(略)所轄税務署長に提出しなければならない。

(出典:所得税法 第百九十四条(給与所得者の扶養控除等申告書))

期限は「毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに」です。

転職した人にとっては、転職先から最初の給与を受け取る日の前日まで、ということになります。

入社初日に書類の束を渡されるのは、この条文の期限が入社直後に来るからです。

提出先は税務署長、渡す相手は勤務先です

第194条は「当該給与等の支払者を経由して」と書いています。

経由した先の扱いは、第198条が定めています。

第百九十四条から第百九十六条まで(給与所得者の源泉徴収に関する申告書)の場合において、これらの規定による申告書がその提出の際に経由すべき給与等の支払者に受理されたときは、その申告書は、その受理された日にこれらの規定に規定する税務署長に提出されたものとみなす。

(出典:所得税法 第百九十八条(給与所得者の源泉徴収に関する申告書の提出時期等の特例))

⇒ 転職先が受け取った日に、税務署長へ提出したものとみなされます。

紙でなく電子データで出せることも、同じ条に書かれています。

第百九十四条から第百九十六条までに規定する給与等の支払を受ける居住者は、これらの規定による申告書の提出の際に経由すべき給与等の支払者が電磁的方法(略)による当該申告書に記載すべき事項(以下この項において「記載事項」という。)の提供を適正に受けることができる措置を講じていることその他の政令で定める要件を満たす場合には、当該申告書の提出に代えて、当該給与等の支払者に対し、当該記載事項を電磁的方法により提供することができる。

(出典:所得税法 第百九十八条 第二項)

勤務先の側が受け取る仕組みを整えていることが前提になっている書き方です。

転職の年末調整に前職の源泉徴収票が要るのは、金額を確認できないと計算できないからです

転職した年の年末調整で、いちばん詰まりやすいのがここです。

国税庁No.2674「中途就職者の年末調整」の書き方

この確認は、その人がほかの会社などから交付を受けた「給与所得の源泉徴収票」などで行います。この確認ができないときには、年末調整を行うことはできず、その人が確定申告により所得税及び復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税)の精算を行うことになります。

(出典:No.2674 中途就職者の年末調整|国税庁)

冒頭の「転職した年は年末調整ができない」という話は、ここだけを切り取ったものだと読めます。

条件は「転職したこと」ではなく「前職の給与と源泉徴収税額を確認できないこと」です。

No.2668にも、同じ結論が置かれています。

前の会社などが支払った給与の金額や源泉徴収税額などは、源泉徴収票により確認しますので、速やかにその提出を求めてください。この確認ができないときには、年末調整を行うことはできません。

(出典:No.2668 年末調整の対象となる給与|国税庁)

前職が源泉徴収票をいつ交付するかは所得税法第226条に書いてあります

その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。

(出典:所得税法 第二百二十六条(源泉徴収票))

年の中途で退職した人については「その退職の日以後一月以内」と書かれています。

⇒ 退職から1か月以内に交付する義務が、前職の側にかかっている構造です。

転職しても年末調整の対象にならない人が、条文と国税庁の説明の中にいます

外れる人は、思いつきではなく書き出せる形で並んでいます。

No.2665は、12月に行う年末調整の対象から2つの類型を除いています。

その年の状況年末調整を行うのは誰か根拠として挙がっているもの
年内に転職し、年末まで転職先に勤めている転職先(前職の給与も合算)所得税法第190条/同施行令第311条/国税庁No.2668・No.2674
年内に転職したが、前職の源泉徴収票で金額を確認できない年末調整は行われず、本人が確定申告国税庁No.2668・No.2674
退職したまま年末を迎えた(再就職していない)年末調整の対象外国税庁No.2665
その年の給与の総額が2,000万円を超える年末調整の対象外所得税法第190条(二千万円以下)/国税庁No.2665・No.1900
扶養控除等申告書を出していない年末調整の対象外所得税法第190条・第194条

No.2665は、年の中途で行う年末調整の対象者を5つ挙げたうえで、こう結んでいます。

したがって、年の中途で退職した人で(1)から(4)以外の人は年末調整の対象となりません。

(出典:No.2665 年末調整の対象となる人|国税庁)

⇒ 年末に給与の支払者がいない人は、年末調整という手続きに入る場所がありません。

年内に次の勤務先が決まらなかった場合が、これに当たります。

転職の年に年末調整が行われなかったときは、確定申告で精算します

国税庁のタックスアンサーNo.1900は、年末調整と確定申告の関係をこう説明しています。

大部分の給与所得者の方は、給与の支払者が行う年末調整によって所得税額が確定し、納税も完了しますから、確定申告の必要はありません。

(出典:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁)

裏を返せば、年末調整が行われなかった年は、確定申告が所得税額を確定させる場になります。

同じページは、給与所得者でも確定申告をしなければならない人を7つ挙げています。

しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人(確定申告をすれば税金が還付される人は除きます。)は、確定申告をしなければなりません。

(出典:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁)

かっこ書きの「確定申告をすれば税金が還付される人は除きます」は、義務の話と還付の話を分ける一文です。

7つのうち、転職に関係しやすいのは次の3つです。

  • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
  • 給与を1か所から受けていて、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える人
  • 給与を2か所以上から受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と各種の所得金額との合計額が20万円を超える人

3つ目は、転職先と並行して別の勤務先から給与を受けている人に効いてきます。

転職先と前職以外にも給与がある年末調整は、主たる給与の支払者だけが行います

第194条のかっこ書きが、この場面を先に処理しています。

「その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者」と書かれている部分です。

扶養控除等申告書を出せる相手は、同時にひとつだけという構造になっています。

⇒ 主たる給与の支払者ではない側の給与は、年末調整の対象に入りません。

そこが、No.1900の3つ目の類型につながっています。

転職の年末調整が終わったあとでも、やり直しができる場合があります

年末調整は、12月に一度やったら終わりと決まっているわけではありません。

国税庁のタックスアンサーNo.2671が、やり直しについて書いています。

その年の12月31日までに控除対象扶養親族の数が増えた場合、または減った場合には、年末調整のやり直しをすることができます。

(出典:No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき|国税庁)

同じページには、やり直しをしない場合の受け皿も書かれています。

なお、年末調整のやり直しをしない場合には、役員や使用人本人が、確定申告を行うことによって所得税および復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税)の還付を受けることができます。

(出典:No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき|国税庁)

⇒ 年末調整と確定申告は、どちらか一方しか使えない排他的な関係ではありません。

転職の年末調整について言われている話を、条文と突き合わせます

ここまでで確かめた範囲を、言われがちな話と並べます。

よく言われる話この記事で確かめた一次資料の記載
転職した年は年末調整ができない年末まで転職先に勤めていれば対象になる(国税庁No.2665・No.2674)
前職の給与は自分で申告するしかない前職の給与を含めて年末調整をする(所得税法第190条第1号/施行令第311条)
源泉徴収票は無くても何とかなる確認ができないときには年末調整を行うことはできない(国税庁No.2668)
扶養控除等申告書は年末に出すもの毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに提出(所得税法第194条)
年末調整をしたら確定申告はできないやり直しをしない場合は確定申告で還付を受けられる(国税庁No.2671)

左の列と右の列がずれているものが、そのまま「転職の年に損をしやすい場所」です。

転職の年末調整について、この記事で確かめたこと

  • 年末調整は所得税法第190条の手続きで、行うのは給与等の支払者。対象は扶養控除等申告書を提出した居住者で、その年の給与が二千万円以下の人。
  • 年内に転職して年末まで勤めている人は、国税庁No.2665が挙げる「年の中途で就職し年末まで勤務している人」に当たる。
  • 前職が払った給与は、第190条第1号と施行令第311条により、転職先の年末調整に合算される。
  • 合算の範囲は、その年1月1日から前職が主たる給与等の支払者でなくなる日までに支払うことが確定した給与。
  • 扶養控除等申告書の期限は、第194条により「毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日まで」。
  • 勤務先が受理した日に税務署長へ提出したものとみなされる(第198条第1項)。電磁的方法での提供も同条第2項にある。
  • 前職の金額を確認できないときは年末調整を行うことができず、本人が確定申告で精算する(国税庁No.2668・No.2674)。
  • 前職の源泉徴収票は、第226条により「その退職の日以後一月以内」に交付されることになっている。
  • 年末に給与の支払者がいない人は、年末調整の対象にならない(国税庁No.2665)。
  • 年末調整のやり直しができる場合と、確定申告で還付を受ける道の両方が国税庁No.2671に書かれている。

条文と国税庁の説明の中に「転職したから年末調整ができない」という記載は見当たりませんでした。

書かれているのは「前職の金額を確認できないときは行えない」という条件です。

個別の事情に当てはめた判断は、税務署または税理士の領域です。


この記事で使った一次資料

条文と国税庁ページの確認日は2026年9月16日です。

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