「転職先から身元保証書を出すように言われた。親にサインを頼むしかないのか」。
入社手続きの書類の中で、いちばん説明が少ないのがこの1枚です。
この記事は、転職先に出す身元保証書が何年有効で、保証人がどこまで責任を負うのかを、法令の条文だけで確かめます。
体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。
使うのは、e-Gov法令検索に載っている身元保証ニ関スル法律・民法・労働基準法の条文と、法務省が公表しているパンフレットだけです。
先に結論を書きます。
期間を書かなければ成立の日から3年、期間を書いても5年を超えることはできません。
根拠は、昭和8年に作られた全6条の法律です。
条文の確認日は2026年9月16日です。
転職先に出す身元保証書は、期間を書かなければ3年で効力が切れます
いちばん大事な条文を、そのまま置きます。
引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
片仮名と文語のままですが、書いてあることは3つです。
1つ目は、名称が何であっても中身で判断するということ(引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ)。
2つ目は、期間を定めなかった場合は成立の日から三年間だけ効力を持つということ。
3つ目は、商工業見習者の場合だけ五年になるということです。
数え始めは「其ノ成立ノ日」=契約が成立した日であって、入社日でも決算期でもありません。
身元保証書の根拠法は、昭和8年にできた全6条の法律だけです
この法律は、e-Gov法令検索では「昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)」という名前で載っています。
本則は第一条から第六条までで、附則は1項だけです。
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
条文の全体像を先に表にします。
| 条 | 条文が決めていること | 数字 |
|---|---|---|
| 第一条 | 期間を定めない身元保証契約の有効期間 | 成立の日から三年間(商工業見習者は五年) |
| 第二条第1項 | 期間を定める場合の上限 | 五年を超えられない/超えた定めは五年に短縮 |
| 第二条第2項 | 更新できるかどうかと、更新後の上限 | 更新可/更新の時から五年を超えられない |
| 第三条 | 使用者から保証人への通知義務 | 2つの場合に遅滞なく通知 |
| 第四条 | 保証人の解除権 | 将来に向かって解除できる |
| 第五条 | 裁判所が賠償責任と金額を決めるときの考慮事項 | 一切の事情を斟酌 |
| 第六条 | 保証人に不利益な特約の効力 | すべて無効 |
6つの条文のうち4つが、保証人を守るために置かれているという構成です。
身元保証書に期間を書いても、5年を超えることはできません(第二条)
第一条は「期間を定めなかったとき」の話でした。
期間を書いたときの上限は、第二条第1項が決めています。
身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス
「十年」と書かれた身元保証書にサインしても、条文の側で五年に短縮されます。
無効になるのではなく、期間だけが切り詰められるという書き方です。
更新はできるが、更新のたびに上限がかかる
身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
更新は認められています。
ただし更新後も、更新の時から五年が上限です。
条文には「自動更新」という言葉はありません。
期間が切れたあとに自動でつながる仕組みを定めた条文は、この法律の中には見当たりませんでした。
身元保証書を出したあと、会社の側には通知義務があります(第三条)
意外に知られていないのが、この条文です。
使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
「左ノ場合」は2つ挙げられています。
被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
転職者にとって身近なのは第二号です。
任務や任地が変わって保証人の責任が重くなるときや、監督が難しくなるときが、これに当たると書かれています。
海外赴任や転勤が、条文上の「任地ヲ変更」に当たるかどうかを個別に判定する基準は、この法律には書かれていません。
身元保証書の保証人は、通知を受けたら将来に向かって解除できます(第四条)
身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ
解除できるのは「将来ニ向テ」です。
すでに起きたことを消す効果は、条文に書かれていません。
後段の「自ラ…知リタルトキ亦同ジ」も重要で、会社から通知が来なくても、保証人が自分で事実を知ったときは同じ扱いになります。
つまり会社が通知を怠っても、解除権そのものが消えるわけではないという書き方になっています。
身元保証書の賠償額は、裁判所が一切の事情を斟酌して決めます(第五条)
「身元保証書にサインしたら、本人の損害を全部かぶる」という理解が広がっていますが、条文はそう書いていません。
裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス
条文が名指しで挙げている考慮事項は4つです。
- 被用者の監督に関する使用者の過失の有無
- 身元保証人が身元保証をするに至った事由
- 身元保証をするに当たって用いた注意の程度
- 被用者の任務または身上の変化
そのうえで「其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス」と続きます。
責任の額を決めるのは契約書の文面ではなく、裁判所だという建て付けです。
身元保証書に不利益な特約を書いても、すべて無効になります(第六条)
本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス
この第六条があるので、第一条から第五条までは片側に寄った強行規定として働きます。
たとえば「期間は十年とし、解除は認めない」と書いた身元保証書があっても、第二条と第四条に反して保証人に不利益な部分は第六条で無効となります。
逆に、保証人に有利な特約を無効にする条文はありません。
身元保証書と2020年の民法改正──極度額の明示は条文でどこまで確かめられるか
2020年4月1日から施行された改正民法で、個人が保証人になる根保証契約には極度額の定めが要ることになりました。
その本体が民法第465条の2です。
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
法務省のパンフレットも、同じことを平易な言葉で書いています。
個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については,保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ,保証契約は無効となります。
押さえておきたいのは、民法の条文には「身元保証」という語がほとんど出てこないという点です。
民法の法令データを全文で数えると、「身元保証」の語は1か所しかありません。
その1か所が、雇用の章にある第629条第2項です。
従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。
ただし、身元保証金については、この限りでない。
つまり、身元保証書がそのまま「個人根保証契約」に当たると名指しした条文はありません。
条文から言えるのは、第465条の2が「一定の範囲に属する不特定の債務」を保証する契約で、保証人が法人でないものを対象にしていることまでです。
手元の身元保証書がこの定義に当てはまるかどうかは、その1枚に何と書いてあるかで変わります。
個人根保証契約なら、元本が確定して打ち切られる場合が条文にある
次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
その第三号は、人が亡くなった場合を挙げています。
主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
元本が確定すると、そのあとに新しく発生する債務は保証の対象から外れるという書き方です。
同じ第1項の第二号は、保証人が破産手続開始の決定を受けたときを挙げています。
ただし、これは個人根保証契約についての条文です。
手元の身元保証書がそこに当たるかどうかを直接書いた条文は、やはり見当たりませんでした。
保証契約は書面でなければ効力を生じない
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
会社が口約束ではなく紙を求めてくるのは、この条文があるためです。
いつ結んだ契約かで、適用される民法が変わる
賃貸借や保証などの契約については,原則として,施行日より前に締結された契約については改正前の民法が適用され,施行日後に締結された契約については改正後の新しい民法が適用されます。
転職で新しく差し入れる身元保証書は、施行日より後に結ぶ契約です。
身元保証書という語は、労働基準法には1回も出てきません
労働基準法の法令データを全文で数えると、「身元保証」という語は0件でした。
提出を義務づける条文も、禁止する条文も、労働基準法の中には見当たりません。
ただし、近い場所に置かれている条文はあります。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
禁じられているのは「違約金を定めること」と「損害賠償額を予定すること」です。
実際に生じた損害を後から請求すること自体を禁じた条文ではありません。
また、保証人の負担については民法にも上限の条文があります。
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
保証人が本人より重い責任を負う形は、条文の側で減縮されるという設計になっています。
転職で身元保証書を求められたときに、条文から確かめられること
ここまでの条文から、渡された1枚を見るときの視点を並べます。
- 期間の欄が空白なら、成立の日から三年間(第一条)
- 五年を超える期間が書かれていても、五年に短縮される(第二条第1項)
- 更新の定めがあっても、更新の時から五年が上限(第二条第2項)
- 任務や任地が変わったときは、会社が保証人へ遅滞なく通知する(第三条第二号)
- 保証人は将来に向かって解除できる(第四条)
- 金額を決めるのは裁判所で、使用者の過失の有無も考慮される(第五条)
- 保証人に不利益な特約は無効(第六条)
- 保証の上限額の欄があるかどうかは、民法第465条の2の論点(当てはまるかは書面の中身しだい)
身元保証書を出すかどうかは会社との交渉ごとであり、条文はその可否までは決めていません。
条文が決めているのは、出したあとに保証人がどこまで縛られるかの上限です。
身元保証書と転職について、この記事で確かめたこと
- 根拠法は「昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)」で、本則は6条しかない
- 期間を定めないときの効力は、成立の日から三年間(商工業見習者は五年)
- 期間を定めるときも五年が上限で、超えた定めは五年に短縮される
- 使用者には、2つの場合に保証人へ遅滞なく通知する義務がある
- 保証人は、通知を受けたときや自分で事実を知ったときに、将来に向かって解除できる
- 賠償責任と金額は裁判所が一切の事情を斟酌して定める
- 保証人に不利益な特約は、すべて無効
- 民法第465条の2は個人根保証契約に極度額を求めているが、身元保証契約を名指しした条文は無い
- 労働基準法に「身元保証」の語は0件。民法では第629条第2項の「身元保証金」が唯一の登場
「一生ついてまわる」と言われがちな身元保証書ですが、条文が置いている上限は五年です。
そして期間の欄が空のまま出された1枚は、三年で効力を失うと条文に書かれています。
この記事で使った一次資料
- 昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります(法務省)
- 2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わります(法務省)
- 民法(債権関係)改正|法務省
条文と法務省資料の確認日は2026年9月16日です。
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