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試用期間の解雇はどこまで自由か──労働契約法16条と労働基準法21条「14日」の線を条文で確かめた

「試用期間中なら、会社はいつでも辞めさせられる」。

転職の話になると、この言い方をかなりの確率で見かけます。

この記事は、その話が日本の法令と公的な資料の上でどこまで成り立つのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索で本文を開いた条文と、厚生労働省が公表している資料と統計だけです。

先に結論を書きます。

試用期間中の解雇にも、労働契約法16条の解雇権濫用の規定はそのまま掛かります。

条文の側が試用期間を別扱いしているのは、労働基準法20条の「解雇予告」を14日までの間だけ外す、という1点です。

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試用期間の解雇にも、労働契約法16条がそのまま当てはまります

最初に、いちばん大事な条文を置きます。

根拠は労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

(出典:労働契約法 第十六条(解雇))

主語は「解雇は」です。

「試用期間中を除く」という書き方は、この条文のどこにもありません。

入社何日目かによって条文を分ける、という構造にもなっていません。

労働契約法の本文に「試用」という語は出てきません

e-Gov法令検索から法令本文を取り出して、語が何回出てくるかを数えました。

語労働基準法労働契約法
試用期間0回0回
試用0回0回
試の使用期間1回(第21条第4号)0回
試みの使用期間1回(第12条第3項第5号)0回
本採用0回0回
解雇18回5回

数え方は、それぞれの法令本文をe-Gov法令検索のデータで取得し、タグを外した全文に対して文字列を数えるやり方です。

「試用期間」という語は、労働基準法にも労働契約法にも1回も出てきませんでした。

条文に出てくるのは「試の使用期間」と「試みの使用期間」という、法律独特の古い言い回しのほうです。

よく使われる「本採用拒否」の「本採用」も、2つの法律の本文には0回でした。

この記事が何を根拠にしているか

先に、この記事の作り方を書いておきます。

条文はe-Gov法令検索で本文を開いて確認したものだけを引用しています。

統計の数字は、厚生労働省が公表しているPDFを開いて、そこに載っている値だけを書いています。

試用期間の解雇で条文が別扱いするのは、労働基準法21条の「14日」だけです

試用期間が条文に登場する場所は、数えるほどしかありません。

まず労働基準法20条が原則を決めています

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第二十条(解雇の予告))

30日前の予告か、30日分以上の平均賃金か、という二択の形になっています。

同じ条の第2項は、平均賃金を支払った日数の分だけ予告の日数を短縮できる、と定めています。

21条が、その原則を外す4つの類型を挙げています

前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

(出典:労働基準法 第二十一条)

4つの号のうち、試用期間に当たるのは第4号の「試の使用期間中の者」です。

号対象となる労働者20条が適用されるようになる境目
1号日日雇い入れられる者1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合
2号2箇月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
3号季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
4号試の使用期間中の者14日を超えて引き続き使用されるに至った場合

21条の書き出しは「前条の規定は」です。

ここでいう「前条」は20条、つまり解雇予告の条文だけを指しています。

外れるのは20条の予告義務であって、労働契約法16条の解雇権濫用の規定ではありません。

⇒ 14日は「自由に解雇していい期間」ではなく、「予告が要らない期間」として書かれています。

試用期間中の解雇でも、14日を超えたら予告か手当が要ります

この線引きは、国が公開している見本にもそのまま書かれています。

モデル就業規則の解説にある書き方

試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。

(出典:モデル就業規則(全体版)第6条の解説|厚生労働省)

続けて、予告をしない場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要になる、と書かれています。

解説が根拠として挙げているのは、労働基準法の第20条と第21条です。

予告も手当もなかった場合に、条文が用意しているもの

労働基準法119条は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する対象を各号で列挙しています。

その第1号に「第二十条」が入っています。

もう1つ、民事の側にも条文があります。

裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。

(出典:労働基準法 第百十四条(付加金の支払))

未払いの解雇予告手当と同じ額を、もう一度支払うよう命じられることがある、という条文です。

同じ条のただし書は「この請求は、違反のあつた時から五年以内にしなければならない」と定めています。

試用期間の解雇予告手当のもとになる平均賃金には、専用の規定があります

ここは、条文を2つ並べないと逆の答えになる場所です。

原則は「試みの使用期間」を計算から外す

平均賃金は、算定すべき事由の発生した日以前3箇月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った金額だと12条1項が定めています。

前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。(中略)五 試みの使用期間

(出典:労働基準法 第十二条第3項)

3か月の中に試みの使用期間があれば、その日数も賃金も計算から除く、という書き方です。

ところが、試用期間中に事由が起きたときは外しません

試の使用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合においては、法第十二条第三項の規定にかかわらず、その期間中の日数及びその期間中の賃金は、同条第一項及び第二項の期間並びに賃金の総額に算入する。

(出典:労働基準法施行規則 第三条)

試用期間中の解雇のように、事由そのものが試用期間中に起きた場合は、その日数と賃金を計算に入れると書かれています。

外したままだと、分母も分子も残らなくなるためです。

あわせて12条6項が、雇入後3箇月に満たない者については算定期間を「雇入後の期間」とすると定めています。

⇒ 入社2週間で解雇されても、平均賃金を計算する道筋は条文の側に用意されています。

試用期間の解雇の事由は、就業規則に書いてあることが前提です

会社の側にも、条文で課された宿題があります。

労働基準法89条3号の括弧書き

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。(中略)三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(出典:労働基準法 第八十九条(作成及び届出の義務))

対象は「常時十人以上の労働者を使用する使用者」です。

89条の各号のうち、4号から10号までは「定めをする場合においては」という条件付きの書き方になっています。

3号にはその条件が付いていません。

解雇の事由は、書くかどうかを会社が選べる項目ではなく、書くことが前提になっている項目です。

89条に違反した者は、120条1号で三十万円以下の罰金の対象に挙げられています。

採用のときに明示する項目にも、同じ言葉が入っています

労働基準法15条1項は、労働契約の締結に際して労働条件を明示しなければならないと定めています。

その中身を列挙しているのが施行規則5条です。

四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(出典:労働基準法施行規則 第五条第1項第4号)

同じ5条は、この4号までの事項(昇給に関する事項を除く)について「書面の交付」を明示の方法とすると定めています。

労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール等による方法も認められています。

⇒ 入社時に受け取った労働条件通知書と就業規則が、あとから解雇の理由を照らし合わせる材料になります。

試用期間中に解雇されたら、解雇理由証明書を請求できます

労働者の側から動かせる条文が、1つあります。

辞めるより前に請求する場合=22条2項

労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(出典:労働基準法 第二十二条第2項(退職時等の証明))

請求できるのは、予告された日から退職の日までの間です。

会社側の義務は「遅滞なくこれを交付しなければならない」と書かれています。

辞めたあとに請求する場合=22条1項

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(出典:労働基準法 第二十二条第1項)

解雇が退職の事由である場合は、その理由を含めて証明書に書くことが条文で明示されています。

22条3項は「前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない」と定めています。

22条1項から3項までに違反した者は、120条1号で三十万円以下の罰金の対象に挙げられています。

証明書に秘密の記号を記入することを禁じた22条4項のほうは、119条1号に挙げられています。

⇒ 口頭で告げられた理由と、証明書に書かれた理由が食い違うかどうかは、書面をもらってはじめて比べられます。

国のモデル就業規則は、試用期間と解雇をどう書いているか

会社の規則がどう書かれるのかは、国が見本を公開しています。

第6条(試用期間)の規定例

試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。

(出典:モデル就業規則(全体版)第6条第3項|厚生労働省)

ここで参照されている第53条2項が、30日前の予告か、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当か、を定めた条です。

同じ第53条の3項3号は「試用期間中の労働者(ただし、14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)」を、予告の規定を適用しない相手として挙げています。

第6条4項は「試用期間は、勤続年数に通算する。」と書いています。

試用期間の長さについて、条文の定めはありません

試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。

(出典:モデル就業規則(全体版)第6条の解説|厚生労働省)

3か月・6か月といった数字を決めているのは法律ではなく、会社ごとの就業規則です。

モデル就業規則の規定例も、月数の部分が空欄のまま置かれています。

解雇事由の規定例にも、試用期間が出てきます

試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。

(出典:モデル就業規則(全体版)第53条第1項⑤|厚生労働省)

第53条の解説は、労働基準法89条3号の「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が絶対的必要記載事項であることを説明しています。

そのうえで、労働契約法16条を引き、就業規則に解雇の事由を定めるに当たってはこれらの法律の規定に抵触しないようにしなければならない、と書いています。

就業規則に書いてあることと、16条に照らして相当かどうかは、別々に見られる、という構造です。

試用期間中でも解雇できないと条文が書いている場面があります

16条の判断に入る前に、そもそも止まる場面があります。

労働基準法19条(解雇制限)

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。

(出典:労働基準法 第十九条(解雇制限))

この条文にも「試用期間中を除く」という書き方はありません。

ただし書として、打切補償を支払う場合と、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合が置かれています。

19条に違反した者は、119条1号で六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金の対象に挙げられています。

20条のただし書も、会社が勝手には使えません

20条1項ただし書は、予告も手当も要らなくなる2つの場合を挙げています。

1つは天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合です。

もう1つは労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合です。

ただし20条3項が19条2項を準用しており、行政官庁の認定を受けなければならない形になっています。

法第十九条第二項の規定による認定又は法第二十条第一項但書前段の場合に同条第三項の規定により準用する法第十九条第二項の規定による認定は様式第二号により、法第二十条第一項但書後段の場合に同条第三項の規定により準用する法第十九条第二項の規定による認定は様式第三号により、所轄労働基準監督署長から受けなければならない。

(出典:労働基準法施行規則 第七条)

認定を出すのは所轄労働基準監督署長だと、施行規則が名指しで書いています。

⇒ 「即日解雇でいい事案かどうか」を会社が単独で決める形にはなっていません。

試用期間の解雇は、統計の上でどれくらい相談されているか

数字は、厚生労働省が毎年公表しています。

令和7年度の総合労働相談は119万8,010件

厚生労働省は令和8年7月7日に「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表しました。

総合労働相談件数は119万8,010件で、前年度比0.3%減です。

資料は「18年連続で100万件を超え、高止まり」と書いています。

このうち民事上の個別労働関係紛争の相談は27万7,053件で、前年度比3.5%増でした。

「解雇」の相談は3万2,651件

相談の内容件数割合
いじめ・嫌がらせ55,614件17.0%
自己都合退職38,386件11.7%
労働条件の引き下げ33,368件10.2%
解雇(3種の合計)32,651件10.0%
 うち普通解雇25,967件7.9%
 うち懲戒解雇3,645件1.1%
 うち整理解雇3,039件0.9%
退職勧奨26,022件7.9%

母数は、民事上の個別労働関係紛争の内訳延べ相談件数327,359件です。

1回の相談で複数の内容にまたがる場合は、複数の相談内容が件数として計上される数え方だと注記されています。

解雇に関する相談は、内訳延べ相談件数のちょうど10件に1件です。

紛争調整委員会によるあっせんの申請では「解雇」が892件で最も多く、前年度比12.6%増と書かれています。

同じ資料の助言・指導の事例には、労働契約法16条を事業主に説明したところ解雇が取り消され、合意退職に切り替わった例が載っています。

この統計に「試用期間中の解雇」という区分は無く、試用期間だけを取り出した件数は公表されていません。

試用期間の解雇で、条文と公的統計に無いもの

条文と公的資料に、数字や定めが無い点をまとめます。

  • 試用期間中の解雇が裁判でどれだけ無効とされているか、という割合は、厚生労働省の資料には載っていません。
  • 試用期間の長さの相場を示す数字は、条文にも公的資料にもありません。
  • 個別労働紛争解決制度の統計に「試用期間」という区分はありません。
  • 「本採用拒否」という語は、労働基準法・労働契約法・モデル就業規則のいずれの本文にも出てきません。
  • 試用期間の延長ができるかどうかについて、条文の定めはありません。

個別の事案がどう判断されるかは、条文だけでは決まりません。

試用期間の解雇についてよくある質問

入社14日以内なら、予告なしで解雇されても仕方ないのですか

労働基準法21条の本文とただし書は、試の使用期間中の者が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合に20条を適用する、という書き方をしています。

したがって14日以内であれば、20条の予告義務は外れます。

外れるのは予告の手続だけで、労働契約法16条による判断は残ります。

試用期間の解雇に、解雇予告手当は要りますか

14日を超えて使用された後の解雇で、30日前の予告をしていない場合は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと20条1項が定めています。

予告した日数の分だけ支払う日数を短縮できると20条2項が定めています。

試用期間の解雇の理由を、書面でもらえますか

労働基準法22条1項と2項が、労働者が請求した場合に使用者は遅滞なく証明書を交付しなければならないと定めています。

解雇が退職の事由である場合は、その理由も証明書の記載事項に含まれます。

試用期間は最長で何か月までですか

モデル就業規則の解説は「試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありません」と書いています。

上限の月数は、今回確認した条文と資料の中には見つかりませんでした。

どこに相談すればよいのですか

厚生労働省は、都道府県労働局・労働基準監督署・駅近隣の建物など378か所(令和8年4月1日現在)に総合労働相談コーナーを設置していると書いています。

制度の枠組みは個別労働紛争解決制度|厚生労働省のページにまとまっています。

まとめ:試用期間の解雇で読む条文は「16条」と「21条」の2つです

条文と公的資料から言えることを4行にします。

  • 労働契約法16条は「解雇は」と書いているだけで、試用期間中を除くとは書いていません。
  • 労働基準法21条4号が外しているのは、20条の解雇予告だけで、その線は条文どおり「十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合」までです。
  • 解雇の事由は、労働基準法89条3号によって就業規則の記載事項に位置づけられています。
  • 解雇の理由は、労働基準法22条によって証明書の形で請求できます。

⇒ 最初に確かめるものは、入社日から何日目かと、就業規則の解雇事由の書き方です。

⇒ そのうえで、告げられた理由が証明書にそのまま書かれるかどうかを見ることになります。


この記事で使った一次資料

条文と資料の確認日は2026年9月12日です。

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