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固定残業代が有効になる条件──労働基準法37条の割増賃金と、求人票への明示3点を条文で確かめた

「うちは固定残業代だから、残業代は出ない」。

求人票を見ていると、この説明にかなりの確率で行き当たります。

この記事は、その説明が日本の法令と厚生労働省の公表資料の上でどこまで成り立つのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索で本文を開いた条文と、厚生労働省が公表しているPDFだけです。

先に結論を書きます。

固定残業代という仕組みそのものを禁じた条文はありませんが、「これを払ったから割増賃金を払ったことになる」と言えるための条件は、労働基準法第37条の側から厳しく決まっています。

そして「固定残業代」という言葉は、労働基準法にも労働基準法施行規則にも1回も出てきません。

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固定残業代という言葉は、労働基準法の条文には1回も出てきません

最初に、いちばん誤解されている事実から置きます。

2つの法令の全文を検索した結果

e-Gov法令検索から労働基準法と労働基準法施行規則の本文を取り出し、語がいくつ出てくるかを数えました。

語労働基準法労働基準法施行規則
固定残業(代)0回0回
みなし残業0回0回
定額残業0回0回
割増賃金16回7回

数え方は、それぞれの法令本文をe-Gov法令検索のデータで取得し、タグを外した全文に対して文字列を数えるやり方です。

条文の側にあるのは「割増賃金」という言葉だけです。

固定残業代は、その割増賃金を「あらかじめ定額で先払いする」という運用に付いた呼び名にすぎません。

では、この呼び名はどこで定義されているのか

厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークの連名リーフレットに、定義が書かれています。

「固定残業代」とは、その名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。

(出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省)

注目すべきは「その名称にかかわらず」という一言です。

営業手当でも、職務手当でも、業務手当でも、中身が「一定時間分の割増賃金の定額払い」なら固定残業代として扱われます。

⇒ 手当の名前を見ても判断できません。中身を見る必要があります。

この記事が何を根拠にしているか

先に、この記事の作り方を書いておきます。

条文はe-Gov法令検索で本文を開いて確認したものだけを引用しています。

割増率は、労働基準法の条文と、厚生労働省が公表しているリーフレットの両方で確かめました。

固定残業代が背負っている義務の本体は、労働基準法第37条です

固定残業代の話は、すべてこの条文の言い換えです。

第37条第1項の本文

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第三十七条第一項)

条文は「支払わなければならない」と書いています。

払い方までは書いていません。

だから、あらかじめ定額で先に払う形そのものは、この条文からは否定されません。

ただし、条文が求めているのは「計算額の◯割以上の率で計算した金額」が労働者に届いていることです。

先払いした定額が、その水準に届いているかどうかは、あとから必ず検算できなければ意味がありません。

月60時間を超えた分についてのただし書

ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第三十七条第一項ただし書)

深夜についての第4項

使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第三十七条第四項)

深夜の割増は、時間外の割増とは別の項に置かれています。

⇒ 別の項にあるということは、重なったときは足し合わせる、ということです。

固定残業代の水準を測るための割増率を、条文と厚労省資料の両方で確かめました

条文が「政令で定める率」と書いているので、率そのものは政令を見ないと分かりません。

率を決めている政令の全文

労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。

(出典:労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)

この政令は、本文がこの1文だけです。

二割五分が25%、三割五分が35%です。

割増率をまとめた表

働かせた中身最低の割増率根拠
時間外労働(月60時間以下)25%以上労働基準法第37条第1項+平成6年政令第5号
時間外労働(月60時間超)50%以上労働基準法第37条第1項ただし書
法定休日労働35%以上労働基準法第37条第1項+平成6年政令第5号
深夜労働(22時〜5時)25%以上労働基準法第37条第4項
時間外(60時間以下)+深夜50%以上労働基準法施行規則第20条第1項
時間外(60時間超)+深夜75%以上労働基準法施行規則第20条第1項
法定休日+深夜60%以上労働基準法施行規則第20条第2項

重なったときの率は、法律ではなく施行規則の第20条に書かれています。

条文は労働基準法施行規則で読めます。

厚生労働省のリーフレット側の書き方

同じ率が、厚生労働省のリーフレットにも数字で書かれています。

月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる場合、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。

(出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省)

(※)法定休日労働の割増賃金率は、35%です。

(出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省)

条文の「二割五分」と、リーフレットの「25%」は同じものを指しています。

固定残業代の50%は、2023年4月から中小企業にも適用されています

ここは、古い記事がいちばん残っているところです。

改正のポイント

中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%になります

(出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省)

同じリーフレットは、適用の始まりについてこう書いています。

2023年4月1日から労働させた時間について、割増賃金の引き上げの対象となります。

(出典:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省)

2023年3月31日までは、中小企業だけが月60時間超でも25%でよいという扱いでした。

その猶予は終わっているので、いま中小企業に固定残業代を設定する場合も、月60時間を超える部分は50%で計算した水準に届いていなければなりません。

中小企業の線引き

そもそも中小企業かどうかは、業種と、資本金または労働者数で決まります。

業種資本金の額または出資の総額常時使用する労働者数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
上記以外のその他の業種3億円以下300人以下

この表は、上の厚生労働省リーフレットに載っているものをそのまま並べたものです。

リーフレットは、どちらか一方を満たすかどうかで企業単位で判断されると書いています。

固定残業代が有効になるかどうかは「判別できるか」で分かれます

ここが、この記事のいちばんの山です。

厚生労働省のリーフレットが引いている最高裁判決

先ほどの固定残業代リーフレットは、裏面で裁判例を紹介しています。

平成24年3月8日の最高裁第一小法廷判決について、リーフレットはこう書いています。

基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法第37条第1項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。

(出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省)

この事案は、基本給を月額41万円とし、月間総労働時間が180時間を超えた分だけ別に払う、という契約でした。

41万円の中の「どこまでが通常の賃金で、どこからが割増賃金なのか」が分けられない、というのが判断の中身です。

⇒ 固定残業代を有効に主張するには、金額の中で2つの部分が線引きされていなければなりません。

同じリーフレットが引いている東京地裁の2件

平成20年3月21日の東京地裁判決について、リーフレットはこう書いています。

少なくとも労働者が自分が当月働いた分についてどれだけの時間外労働がなされ、それに対していくらの割増賃金が出ているのかを概算的にでも有効・適切に知ることができなければ、労使の合意に基づいた労働条件の中身としての賃金なり給与条件の合意が成立したことにはならない。

(出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省)

もう1件、平成20年10月7日の東京地裁判決も紹介されています。

こちらは、売上に応じて支給される販売手当を割増賃金の代わりだと会社が主張した事案です。

リーフレットの引用では、その手当は割増賃金と同様の性質を有するものとはいい難い、と書かれています。

3件に共通しているのは、「その金額が割増賃金だと、労働者の側から確かめられるか」という一点です。

求人票を見るときのチェック

この一点を、求人票の読み方に落とすと3つになります。

  • 固定残業代を除いた基本給の額が、単独で書かれているか
  • その固定残業代が何時間分なのかが、時間数で書かれているか
  • その時間を超えた分は別に払うと書かれているか

この3つは、次のH2で見るとおり、厚生労働省が事業主に求めている明示事項とぴったり重なります。

固定残業代は、求人票と募集要項に3点セットで明示することとされています

根拠は、若者雇用促進法に基づく指針です。

厚生労働省が事業主に求めている3項目

固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①~③の内容すべてを明示してください。

(出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省)

番号明示する内容(リーフレットの表記)
①固定残業代を除いた基本給の額
②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

リーフレットは、記載例まで示しています。

基本給は②の手当を除いた額で書き、手当については「時間外労働の有無にかかわらず、何時間分の時間外手当としていくら支給するのか」を書き、その時間を超える分は追加で支給する、という書き方です。

「◯時間分」の時間数が書かれていない求人票は、この3点セットを満たしていません。

指針の原文

リーフレットは、参考として指針の第二の一(一)ヘを引いています。

固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。

(出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省)

指針の正式な名前は「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」です。

法律の側の名前は「青少年の雇用の促進等に関する法律」で、通称が若者雇用促進法です。

厚生労働省の青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)についてのページに、法律・政令・省令・告示がまとめて置かれています。

厚生労働省のハンドブックにも同じ3項目が載っています

厚生労働省が毎年更新している「知って役立つ労働法」にも、固定残業代のコラムがあります。

「固定残業代制」を採用する場合、求人票や募集要項において、①固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、②固定残業代を除外した基本給の額、③固定残業時間を超える時間外労働等分についての割増賃金を追加で支払う、といったことを明示することとされています(若者法指針)

(出典:知って役立つ労働法 働くときに必要な基礎知識(令和8年4月更新版)|厚生労働省)

番号の順序はリーフレットと入れ替わっていますが、中身は同じ3項目です。

固定残業代は労働条件通知書と就業規則の側にも書かれている必要があります

求人票は入口にすぎません。

労働契約を結ぶときの明示義務

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

(出典:労働基準法 第十五条第一項)

明示しなければならない中身は、施行規則の第5条に並んでいます。

賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

(出典:労働基準法施行規則 第五条第一項第三号)

「賃金の決定、計算及び支払の方法」に、固定残業代の計算のしかたが含まれます。

そして、明示の方法まで施行規則が決めています。

法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

(出典:労働基準法施行規則 第五条第四項)

原則は書面の交付です。

同じ項のただし書は、労働者が希望した場合にはファクシミリの送信と電子メール等の送信も認めています。

⇒ 口頭だけの説明は、この条文の求める方法に入っていません。

就業規則の側の義務

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。

(出典:労働基準法 第八十九条)

その第2号が「賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」です。

つまり、常時10人以上を使う会社が固定残業代を採るなら、就業規則にその計算方法が書かれていなければなりません。

厚生労働省はモデル就業規則を公開しており、割増賃金の条文例も載せています。

先ほどの月60時間のリーフレットにも、時間外労働60時間以下は25%、60時間超は50%とする規定例が載っています。

固定残業代の土台になる時間単価から外せる手当は、限定列挙です

固定残業代が足りているかを検算するには、まず1時間あたりの単価を出す必要があります。

月給から時間単価を出す方法

月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

(出典:労働基準法施行規則 第十九条第一項第四号)

月給を、その月の所定労働時間数で割るだけです。

月ごとに所定労働時間が違う会社は、1年の平均を使います。

単価の計算から外してよい賃金

法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

(出典:労働基準法施行規則 第二十一条)

外せる賃金根拠
家族手当労働基準法第37条第5項
通勤手当労働基準法第37条第5項
別居手当施行規則第21条第1号
子女教育手当施行規則第21条第2号
住宅手当施行規則第21条第3号
臨時に支払われた賃金施行規則第21条第4号
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金施行規則第21条第5号

この7つ以外の手当は、原則として時間単価の計算に入ります。

条文は「次に掲げる賃金は」という限定列挙の書き方をしています。

⇒ 会社が独自に「この手当も外す」と決めても、条文の側では外れません。

検算の順番

  • 固定残業代を除いた月給から、上の7つに当たる手当を差し引く
  • 残った金額を、その月の所定労働時間数で割って時間単価を出す
  • 時間単価に1.25を掛けて、固定残業代の金額を割る
  • 出てきた時間数が、求人票に書かれた「◯時間分」と合っているかを見る

合っていなければ、どちらかの数字に説明が要ります。

固定残業代を超えた分を払わないと、罰則と付加金の対象になります

第37条は、罰則の付いている条文です。

罰則の条文

次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

(出典:労働基準法 第百十九条)

その第1号に列挙された条文の中に、第三十七条が入っています。

付加金の条文

裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。

(出典:労働基準法 第百十四条)

未払金と同じ額を上乗せで命じることができる、という条文です。

命じることが「できる」と書かれているので、必ず上乗せされるとは条文からは読めません。

いつまで遡って請求できるか

本則の第115条は、賃金の請求権を5年としています。

ただし、附則が当分の間の読み替えを置いています。

第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

(出典:労働基準法 附則第百四十三条第三項)

退職手当を除く賃金の請求権は、当分の間3年です。

同じ附則の第2項は、付加金の請求の期限も当分の間3年に読み替えています。

実際にどれくらい起きているのか

厚生労働省は、賃金不払が疑われる事業場への監督指導の結果を毎年公表しています。

令和6年の分は、令和7年8月7日に公表されました。

項目令和6年前年比
件数22,354件1,005件増
対象労働者数185,197人3,294人増
金額172億1,113万円70億1,760万円増

出典は賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します|厚生労働省です。

それでも、監督署が扱った件数が2万件を超えている事実は動きません。

転職で固定残業代の求人に当たったときに、確かめられること

ここまでの条文と資料から、面接前に確かめられることが整理できます。

求人票の段階で見るもの

基本給の額が、固定残業代を除いた金額として単独で書かれているかを見ます。

固定残業代が何時間分なのか、時間数が書かれているかを見ます。

超えた分を追加で払うという一文があるかを見ます。

3つのうち欠けているものがあれば、厚生労働省が求めている明示に届いていない、という言い方ができます。

内定後の書面で見るもの

労働条件通知書に、同じ3点が書かれているかを見ます。

求人票と労働条件通知書で、固定残業代の金額や時間数が食い違っていないかを見ます。

労働基準法第15条第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合には労働者が即時に労働契約を解除できると定めています。

食い違いは、あとから気づくより、書面を受け取った時点で見つけるほうが選択肢が残ります。

入社後に見るもの

給与明細で、固定残業代が独立した項目として印字されているかを見ます。

固定残業時間を超えた月に、超過分が別の行で足されているかを見ます。

この2つが揃っていれば、上で見た「判別できるか」という論点はクリアに近づきます。

固定残業代についてこの記事で確かめたこと

この記事で一次資料に当たって確かめたことを並べます。

  • 「固定残業代」「みなし残業」「定額残業」という語は、労働基準法にも労働基準法施行規則にも1回も出てこない
  • 義務の本体は労働基準法第37条で、時間外・休日・深夜について割増賃金を支払わなければならないと書かれている
  • 率は平成6年政令第5号が定めており、時間外が二割五分、休日が三割五分
  • 月60時間を超える時間外は五割以上で、2023年4月1日から中小企業にも適用されている
  • 深夜は第37条第4項で二割五分以上、重なったときの率は施行規則第20条にある
  • 最高裁判決を引いた厚生労働省の資料は、通常の賃金部分と割増賃金部分を「判別することはできない」場合に支払ったことにならないと述べている
  • 求人票・募集要項には、基本給・計算方法・超過分の追加支払の3点を明示することとされている(若者雇用促進法に基づく指針)
  • 労働条件は労働基準法第15条と施行規則第5条により、原則として書面の交付で明示される
  • 割増賃金の基礎から外せる賃金は、家族手当・通勤手当のほか施行規則第21条の5つだけ
  • 第37条違反には第119条の罰則があり、第114条の付加金の対象にもなる
  • 賃金の請求権の時効は、附則第143条第3項により当分の間3年
  • 令和6年に労働基準監督署が扱った賃金不払事案は22,354件、172億1,113万円

固定残業代そのものは違法な仕組みではありませんが、「判別できること」と「超えた分を別に払うこと」が外れた瞬間に、条文の側の要求を満たさなくなります。

個別の事案でどう判断されるかは、この記事で使った一次資料だけからは決められません。

労働条件の中身に不安がある場合の相談先は、労働基準監督署とハローワーク、労働局です。

この記事の条文は、いずれもe-Gov法令検索の本文で確認しています。

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