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内定取り消しはいつから「解雇」になるのか|労働契約法16条と職業安定法施行規則35条2項で確かめる

「内定はまだ約束にすぎないから、会社はいつでも取り消せる」。

内定取り消しの話になると、必ずこの言い方が出てきます。

この記事は、その言い方が日本の法令と公的資料の上でどこまで成り立つのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている条文と、厚生労働省が公表している解説・要領・統計だけです。

先に結論を書きます。

採用内定の時点で労働契約が成立していると認められる場合、内定取り消しは解雇であり、労働契約法第16条の解雇権濫用の規定が当てはまります。

つまり「約束の段階」ではなく「契約の段階」から始まっている、というのが公的資料の側の整理です。

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内定取り消しが解雇と同じ重さで扱われるのは、内定の時点で労働契約が成立しているからです

最初に、いちばん大事な前提を置きます。

厚生労働省の業務取扱要領が「採用内定時に労働契約が成立する」と書いています

厚生労働省人材開発統括官が出している業務取扱要領に、次の一文があります。

学校卒業見込者等については、一般に採用内定時に労働契約が成立すると解されることから、原則として、採用内定時までに、法第5条の3第1項の明示及び変更等明示が書面により行われるべきであることに留意すること。

(出典:学校等の行う無料職業紹介事業関係 業務取扱要領(令和8年4月・厚生労働省人材開発統括官))

ここで言う「法第5条の3第1項」は、職業安定法が求めている労働条件の明示のことです。

労働条件の明示は、労働契約を結ぶ相手に対して行うものです。

その明示を「採用内定時までに」済ませておけと書いてある以上、行政は内定を契約の成立点として扱っています。

労働契約は合意だけで成立します

労働契約がいつ成立するかは、労働契約法が定めています。

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

(出典:労働契約法 第六条(e-Gov法令検索))

条文に「契約書を交わしたときに成立する」とは書かれていません。

要件は「合意」だけです。

⇒ 入社日が先でも、書面がまだでも、合意があれば契約は成立している、という構造になっています。

この記事が何を根拠にしているか

先に、この記事の作り方を書いておきます。

条文はe-Gov法令検索で本文を開いて確認したものだけを引用しています。

解説と統計は、厚生労働省が公開しているページとPDFを開いて、そこに載っている文と数字だけを書いています。

裁判例の名前と年月日は、厚生労働省の裁判例ページに載っているものだけを書いています。

内定取り消しの法的な整理は「始期付解約権留保付労働契約」です

この長い名前が、内定という状態を一言で表しています。

厚生労働省の定義

厚生労働省の労働条件ポータル「確かめよう労働条件」は、採用内定を次のように説明しています。

採用内定について法的な定義はなく、また態様も様々ですが、一般的には、「労働者と使用者との間で一定の始期及び採用内定通知書又は誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合は解約できるという解約権留保を付して労働契約を締結した状態」を指すことが多いものと考えられます。

(出典:採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点|確かめよう労働条件|厚生労働省)

読みどころは「法的な定義はなく」から始まっていることです。

内定という言葉そのものは、法律の条文には定義されていません。

それでも中身は労働契約であり、そこに「始期」と「解約権留保」という2つのオプションが付いている、という組み立てです。

2つのオプションを分けて読む

用語意味内定取り消しへの効き方
始期就労が始まる日が先に決まっていること入社日前でも契約はもう存在している
解約権留保内定通知書や誓約書に書かれた取消事由が起きたら解約できる、という留保会社が使えるのは留保した範囲だけ
労働契約合意で成立した本体(労働契約法第6条)解約は解雇として扱われる

この表で大事なのは3行目です。

解約権が「留保されている」ことは、自由に解約できることを意味しません。

留保された権利も、権利である以上は濫用の禁止がかかります。

内々定は同じ扱いになるとは限りません

同じページは、内々定について「内定の段階に比べて多くの場合に労働契約を締結したとの認識には至っていないと考えられます」と書いています。

ただし同じ文の続きで、拘束関係の度合いが強ければ「採用内定」と認められることもあり得るとしています。

⇒ 呼び名ではなく、実際の拘束の強さで判断される、という書き方になっています。

内定取り消しに適用される条文は、労働契約法第16条です

ここが、この論点でいちばん短くて、いちばん強い条文です。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

(出典:労働契約法 第十六条(e-Gov法令検索))

条文はたった一文です。

そして条件が2つ並んでいます。

2段構えになっている

1つ目は「客観的に合理的な理由」があるかどうかです。

2つ目は「社会通念上相当」と言えるかどうかです。

⇒ 理由があっても、やり方が相当でなければ無効になり得る、という並びです。

厚生労働省が内定取り消しに当てはめて書いています

厚生労働省の労働契約ポータルは、この条文を内定取り消しに当てはめて次のように整理しています。

採用内定により労働契約が成立したと認められる場合、採用内定取消しが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となります。

(出典:労働契約の終了|労働契約等解説セミナー:労働契約ポータルサイト|厚生労働省)

⇒ 「内定取り消しは解雇に準じる」ではなく、行政の文面では解雇そのものとして書かれています。

内定取り消しが有効になる範囲を、厚生労働省は2つの条件で示しています

では、どこまでなら取り消せるのでしょうか。

裁判例ページに載っている基本的な方向性

厚生労働省の裁判例ページは、採用内定の取消について次の方向性を挙げています。

採用内定を取り消せるのは、内定当時知ることができないか、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限られる。

(出典:採用内定の取消|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省)

同じページは、この方向性を示した最高裁判決として大日本印刷採用内定取消事件(S54.07.20最二小判)を挙げています。

⇒ 判断の軸は「内定を出した時点で知り得たかどうか」です。

内定を出す前に調べれば分かったはずのことは、後から取消しの理由にしにくい、という向きになります。

厚生労働省が具体例として挙げている取消事由

「確かめよう労働条件」のQ&Aは、考えられる取消事由を5つ挙げています。

厚生労働省が挙げている取消事由
契約の前提となる条件や資格の要件を満たさないとき
健康状態の悪化
重要な経歴詐称
重要な必要書類を提出しないこと
その他の不適格事由

出典は同Q&Aの「詳しく解説」です。

いずれも「卒業できない」「提出書類が出てこない」のように、内定後に初めて分かる種類の事実が並んでいます。

経営悪化を理由にするときは整理解雇の4要素で見られます

同じQ&Aは、経営状況の悪化による採用内定取消についても書いています。

そこでは、基本的に整理解雇の場合に準じて、いわゆる整理解雇の4要素を踏まえて有効性が判断されるとしています。

整理解雇の4要素問われる中身
人員整理の必要性そもそも減らす必要が本当にあったか
解雇回避の努力義務取り消す前に他の手を尽くしたか
解雇対象者の選定の合理性なぜその人が対象になったか
手続の妥当性説明と協議をしたか

⇒ 「業績が悪いから」の一言だけでは、この4つのうち1つ目にしか触れていないことになります。

新卒者の内定取り消しには、職業安定法施行規則第35条第2項の通知義務がかかります

ここからは、新規学卒者だけにかかる別のルールです。

条文はこう書いています

新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(次号において「内定期間」という。)に、これを取り消し、又は撤回するとき。

(出典:職業安定法施行規則 第三十五条 第二項第二号(e-Gov法令検索))

この号に当たる場合、雇い入れようとする者は「あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長」に通知するものとされています。

公共職業安定所はハローワークのことです。

施設の長は、学校や専修学校などの長を指します。

⇒ 新卒の内定取り消しは、本人に伝えて終わりではなく、事前にハローワークと学校の両方へ通知するものとされています。

通知は厚生労働大臣まで上がります

公共職業安定所長は、前項の規定による通知の内容を都道府県労働局長を経て厚生労働大臣に報告しなければならない。

(出典:職業安定法施行規則 第三十五条 第三項(e-Gov法令検索))

この第35条は、職業安定法第54条を受けた規定です。

第54条は「厚生労働大臣は、労働者の雇入方法を改善し、及び労働力を事業に定着させることによつて生産の能率を向上させることについて、工場事業場等を指導することができる」と定めています(職業安定法 第五十四条)。

⇒ 通知は統計を取るためだけのものではなく、指導に接続する仕組みとして置かれています。

内定期間を延長する場合も、同項第3号で通知の対象になっています。

内定取り消しをした企業名が公表される仕組みは、施行規則第17条の4にあります

通知の先には、公表という段階があります。

厚生労働大臣は、第三十五条第三項の規定により報告された同条第二項(第二号に係る部分に限る。)の規定による取り消し、又は撤回する旨の通知の内容(当該取消し又は撤回の対象となつた者の責めに帰すべき理由によるものを除く。)が、厚生労働大臣が定める場合に該当するとき(略)は、学生生徒等の適切な職業選択に資するよう学生生徒等に当該報告の内容を提供するため、当該内容を公表することができる。

(出典:職業安定法施行規則 第十七条の四(e-Gov法令検索))

「厚生労働大臣が定める場合」は告示で5つに絞られています

厚生労働省の報道発表資料は、この要件を一覧にして載せています。

厚生労働大臣が事業所名を公表できる要件
2年度以上連続して行われたもの
同一年度内に10名以上の者に対して行われたもの
事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないとき
内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき

出典は令和8年3月新卒者採用内定取消し等の状況(厚生労働省・令和8年8月28日)の参考資料です。

根拠は職業安定法施行規則第十七条の四第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める場合(平成二十一年厚生労働省告示第五号)です。

⇒ 4つ目と5つ目は、取消しの理由ではなく「そのあとの対応」を見ています。

説明しなかったこと、就職先確保の支援をしなかったこと自体が、公表の要件になっています。

内定取り消しの件数は、厚生労働省が毎年公表しています

ここからは、条文ではなく数字です。

令和8年3月新卒者の実績

採用内定取消しを行った事業所は29事業所、採用内定取消しとなった新卒者は80人でした。

(出典:令和8年3月新卒者採用内定取消し等の状況を公表します|厚生労働省(令和8年8月28日))

同じ資料は、令和7年3月新卒者が21事業所・34人だったことも参考として載せています。

入職時期繰下げは、令和8年3月新卒者が2事業所・2人でした。

内定取り消し件数の推移

報道発表資料には、平成21年3月卒からの推移表が付いています。

卒業年事業所数人数(合計)高校生大学生等
平成21年3月卒4472,1433811,761
平成22年3月卒631636498
平成26年3月卒31543024
平成31年3月卒23351916
令和2年3月卒8221144167
令和3年3月卒3813720117
令和4年3月卒28512526
令和5年3月卒25422418
令和6年3月卒25471631
令和7年3月卒21341915
令和8年3月卒29801466

数値は同資料6ページ「新規学校卒業者の採用内定取消し件数の推移」から引用しています。

中学生の欄は、平成22年3月卒の1人を除きすべて0です。

資料の注記によれば、令和2年3月卒から令和5年3月卒までの括弧内の数値は、主として新型コロナウイルス感染症の影響によると考えられるものです。

⇒ 平成21年3月卒の2,143人が突出しており、直近の年は数十人の水準で推移しています。

令和8年3月卒の内訳

同じ資料は、取消し理由別の内訳も載せています。

取消し理由事業所数人数
合計2980
企業倒産11
経営の悪化934
別会社移行17
その他1838

企業規模別では、300人以上が14事業所・45人、99人以下が10事業所・30人でした。

取消しを受けた学生生徒のその後の就職状況は、合計80人のうち就職済みが17人、就職活動中が1人、その他が62人と記載されています。

⇒ 「経営の悪化」と「企業倒産」を合わせても10事業所で、残りは別会社移行とその他です。

内定取り消しと解雇予告(労働基準法第20条)の関係

ここは、公的資料の側でも言い切っていない場所です。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

(出典:労働基準法 第二十条 第一項(e-Gov法令検索))

厚生労働省の事業主向けサイトは、この条文と内定取り消しの関係を次のように書いています。

採用内定によって労働契約が成立していると認められれば、採用内定取消が解雇とみなされ、解雇予告義務等について定める労基法20の規定が適用される場合があります

(出典:内定や内々定を取り消す時また、内定や内々定を辞退された時は、どのような点に留意すればよいのでしょうか?|スタートアップ労働条件|厚生労働省)

注意すべきは「適用される場合があります」という書き方です。

同じページは注記で、採用内定者はまだ具体的な就労義務を負わず賃金も支払われていないことから、労働基準法の適用を否定する裁判例もあるとしています。

⇒ 労働契約法第16条の適用は行政の文面で言い切られている一方、労働基準法第20条の適用は「場合がある」という書き方に留まっています。

この違いは、内定取り消しを受けた側が何を主張できるかの整理に効いてきます。

内定取り消しと内定辞退は、法律上は同じ形になりません

契約は双方向でも、条文の当たり方は対称ではありません。

辞退の側にあるのは職業選択の自由です

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

(出典:日本国憲法 第二十二条 第一項(e-Gov法令検索))

厚生労働省のQ&Aは、内定者側からの内定辞退について「基本的に問題ないものの、それがあまりに信義則に反するような場合は、損害賠償を求められる可能性もあり得る」としています。

事業主向けのページは、労働者の意思に反して労働契約の履行を義務づけることはできないため、責任は損害賠償に止まると書いています。

⇒ 会社側は「無効」を争われ、本人側は「損害賠償」を問われる、という非対称な形になっています。

内定取り消しで、法令に定めがない点と公表されていない統計

条文に定めがない点と、公表されていない統計をまとめます。

中途採用者(新規学卒者以外)の内定取り消し件数は、官公庁の統計として公表されていません。

職業安定法施行規則第35条第2項の通知義務は「新規学卒者」を対象に書かれており、中途採用者を対象にした同様の通知規定は無いのが現状です。

内定取り消しに対する罰則規定も、労働契約法には置かれていません。

内定取り消しについてよくある質問

内定通知をもらっただけで労働契約は成立しますか

厚生労働省の業務取扱要領は、学校卒業見込者等について「一般に採用内定時に労働契約が成立すると解される」と書いています。

「確かめよう労働条件」も、採用内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合には、始期付解約権留保付労働契約が成立したと認められることが多いとしています(確かめよう労働条件)。

内定取り消しの理由を教えてもらえますか

厚生労働省のQ&Aは、内定取消の場合には解雇としての合理的な理由が必要であることを挙げたうえで、労働者としてはその理由を開示してもらう必要があると書いています。

公表要件の4つ目にも「内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき」が入っています。

内々定の取り消しも内定取り消しと同じですか

同じQ&Aは、内々定は多くの場合に労働契約を締結したとの認識には至っていないと考えられるため、内々定の取消は解雇ではないとも考えられるとしています。

ただし拘束関係の度合いが強ければ「採用内定」と認められることもあり、期待権の侵害として損害賠償責任が認められることもあり得るとしています。

内定取り消しをした会社の名前は公表されますか

職業安定法施行規則第17条の4により、厚生労働大臣は一定の場合に内容を公表することができるとされています。

「できる」という書き方であり、すべての内定取り消しが公表されるという規定にはなっていません(e-Gov法令検索)。

内定取り消しはどこに相談すればよいですか

新規学卒者の内定取り消しは、公共職業安定所(ハローワーク)への通知が制度上の起点になっています。

厚生労働省は若者への就職支援のページで、新卒応援ハローワークなどの窓口を案内しています(若者への就職支援|厚生労働省)。

まとめ:内定取り消しは「もう契約が始まっている」という前提から読みます

条文と公的資料から言えることを4行にします。

  • 労働契約は合意で成立し(労働契約法第6条)、厚生労働省は学校卒業見込者等について採用内定時に成立すると解されると書いています。
  • したがって内定取り消しは解雇であり、労働契約法第16条の解雇権濫用の規定が当てはまります。
  • 取り消せる範囲は、内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような事実に限られる、というのが厚生労働省が示す方向性です。
  • 新規学卒者については、職業安定法施行規則第35条第2項の通知と、第17条の4の公表という別ルートの仕組みが動きます。

⇒ 「まだ入社していないから何もできない」という前提は、条文の側からは出てきません。

⇒ 起点は、内定通知が届いた日です。


この記事で使った一次資料

条文・解説・統計の確認日は2026年9月12日です。

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