「転職エージェントは無料で使える」。
求人サイトを開くと、必ずこの一文が出てきます。
では、その無料はどこから出ているのでしょうか。
この記事は、転職エージェントの手数料を誰がいくら払っているのかを、法律の条文と公的な資料だけで確かめます。
体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。
使うのは、e-Gov法令検索に載っている職業安定法と職業安定法施行規則の条文、そして厚生労働省が公表しているパンフレットと集計結果だけです。
先に結論を書きます。
転職エージェントは、求職者から手数料を徴収してはならないと法律が定めています。
例外は省令が挙げる職業に限られ、そのうち3つの職業には年収の下限まで付いています。
転職エージェントが求職者から手数料を取れないのは、職業安定法がそう書いているからです
最初に、いちばん大事な条文を置きます。
転職エージェントは法律上「有料職業紹介事業者」です
転職エージェントという言葉は、法律の条文には出てきません。
条文が使っているのは「有料職業紹介事業者」という呼び方です。
職業安定法第30条第1項は、有料の職業紹介事業を行おうとする者は厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定めています。
その許可を受けた者が、条文でいう有料職業紹介事業者です。
手数料の原則を定める第32条の3
第三十条第一項の許可を受けた者(以下「有料職業紹介事業者」という。)は、次に掲げる場合を除き、職業紹介に関し、いかなる名義でも、実費その他の手数料又は報酬を受けてはならない。
(出典:職業安定法 第三十二条の三 第一項)
この条文の書き方は「原則として取れない、例外だけ取れる」という形です。
しかも「いかなる名義でも」と書いてあります。
⇒ 手数料という名前を避けて「事務費」「登録料」「サポート料」と呼んでも、同じ条文の下に入ります。
求職者からの徴収を正面から禁じる第2項
有料職業紹介事業者は、前項の規定にかかわらず、求職者からは手数料を徴収してはならない。
(出典:職業安定法 第三十二条の三 第二項)
この条文には続けてただし書が置かれています。
ただし、手数料を求職者から徴収することが当該求職者の利益のために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、同項各号に掲げる場合に限り、手数料を徴収することができる。
読みどころは3つです。
1つ目は、本文が「徴収してはならない」という禁止で書かれていることです。
2つ目は、例外の内容を法律自身が書かず、厚生労働省令に預けていることです。
3つ目は、例外に当たる場合でも「同項各号に掲げる場合に限り」と重ねて縛っていることです。
⇒ 求職者から取れる場面は、省令の例外と第1項各号の両方を同時に満たしたときだけです。
転職エージェントが求職者から手数料を取れる例外は、省令が挙げる職業に限られます
例外は事業者が自由に決められるものではありません。
職業安定法施行規則第20条第2項が、職業の名前を挙げて限定しています。
施行規則が名指しした職業
法第三十二条の三第二項の厚生労働省令で定めるときは、芸能家(略)若しくはモデル(略)の職業に紹介した求職者又は科学技術者(略)、経営管理者(略)若しくは熟練技能者(略)の職業に紹介した求職者(当該紹介により就いた職業の賃金の額が厚生労働大臣の定める額を超える者に限る。)から、就職後六箇月以内に支払われた賃金の百分の十一(免税事業者にあつては、百分の十・三)に相当する額以下の手数料を徴収するときとする。
(出典:職業安定法施行規則 第二十条 第二項)
名前が挙がっているのは5つの職業です。
芸能家、モデル、科学技術者、経営管理者、熟練技能者です。
条文はそれぞれの職業に定義を付けており、経営管理者は「会社その他の団体の経営に関する高度の専門的知識及び経験を有し、会社その他の団体の経営のための管理的職務を行う者」とされています。
後半3職業には年収の下限が付く
条文の「厚生労働大臣の定める額」が、実務での線引きになります。
厚生労働省が公表している職業紹介事業パンフレット(令和7年4月)は、この額を年収700万円としています。
同じパンフレットは、月収60万円で短期の雇用契約を結んだ場合は年収に換算すると720万円になるため「これに相当する額を超える場合」に当たる、という例も挙げています。
⇒ 一般の会社員の転職では、求職者手数料を取れる場面はまず出てきません。
求職者から取れる場面を表にする
| 職業 | 年収の条件 | 取れる額の上限 |
|---|---|---|
| 芸能家 | 条文に定めなし | 就職後6か月以内に支払われた賃金の11%(免税事業者は10.3%) |
| モデル | 条文に定めなし | 同上 |
| 科学技術者 | 年収700万円を超えること | 同上 |
| 経営管理者 | 年収700万円を超えること | 同上 |
| 熟練技能者 | 年収700万円を超えること | 同上 |
上限の率は施行規則第20条第2項、年収の額は厚生労働省のパンフレットによります。
受付の段階で取れる経過措置もある
施行規則の附則には、当分の間の措置として別の枠があります。
芸能家、家政婦(夫)、配ぜん人、調理士、モデル、マネキンの6つの職業については、求職の申込みを受理した時点で求職受付手数料を取ることができます。
その額は1件につき710円(免税事業者は660円)が限度で、いずれも消費税を含んだ税込の額として条文に書かれています。
さらに、同じ求職者からの申込みが1か月に3件を超える場合は、1か月につき3件分が限度とされています。
⇒ この6職業に当たらない転職では、登録の時点で費用を求められる根拠がありません。
転職エージェントが企業から取る手数料には、上限制と届出制の2通りがあります
求職者が払わない代わりに、誰が払うのかを見ていきます。
職業安定法第32条の3第1項は、手数料を取れる場合を2つの号に分けています。
一 職業紹介に通常必要となる経費等を勘案して厚生労働省令で定める種類及び額の手数料を徴収する場合 二 あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表(手数料の種類、額その他手数料に関する事項を定めた表をいう。)に基づき手数料を徴収する場合
1号が上限制手数料、2号が届出制手数料と呼ばれています。
2つの違いを表にする
| 項目 | 上限制手数料(1号) | 届出制手数料(2号) |
|---|---|---|
| 額の決め方 | 施行規則の別表が最高額を定める | 事業者が作った手数料表による |
| 届出 | 手数料表の届出は不要 | あらかじめ厚生労働大臣へ届け出る |
| 率の上限 | 賃金額の11%など(別表) | 条文には率の上限の定めなし |
| 行政の関与 | 別表の額を超えられない | 著しく不当なら変更命令 |
| 求人受付手数料との併用 | 組み合わせて徴収する前提 | 組み合わせて徴収できない |
併用の可否は厚生労働省の職業紹介事業パンフレット(令和7年4月)に書かれています。
同じパンフレットは、1つの事業者が取扱分野に応じて上限制と届出制を使い分けること自体は差し支えないとしています。
⇒ ただし同一の相手に対して両方を重ねて徴収することはできない、という整理です。
転職エージェントの上限制手数料は、支払われた賃金額の11%が天井です
上限制を選んだ場合、額は省令の別表で決まります。
別表が定める紹介手数料の最高額
一 支払われた賃金額の百分の十一(免税事業者にあつては、百分の十・三)に相当する額(次号及び第三号の場合を除く。)
同じ別表の第3号には、もう1段階があります。
期間の定めのない雇用契約で同じ人に6か月を超えて雇われた場合は、賃金額の11%に相当する額と、臨時の賃金などを除いた額の14.8%(免税事業者は13.9%)に相当する額のうち、大きいほうを取れるという書き方です。
⇒ 上限制の天井は、率で見ると11%から14.8%のあいだにあります。
求人の受付にも手数料がある
別表は受付手数料も定めています。
求人の申込みを受理した場合、1件につき710円(免税事業者は660円)を限度として求人者から徴収できます。
こちらも税込の額です。
徴収の相手は求人者、つまり人を採りたい企業の側です。
誰から取るかも別表に書いてある
別表の徴収方法の欄は、紹介手数料について「求人者又は関係雇用主から徴収する」と定めています。
関係雇用主とは、備考の定義によれば「求職者の再就職を援助しようとする当該求職者の雇用主又は雇用主であつた者」です。
⇒ どちらも企業側であって、転職する本人ではありません。
転職エージェントの届出制手数料には、率の上限が条文に書かれていません
よく聞く「年収の30%」は、こちらの枠の話です。
届け出れば、額は事業者が決められる
届出制手数料は、あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づいて徴収します。
施行規則第20条第5項は、届出に用いる様式として届出制手数料届出書(様式第三号)を定めています。
手数料表そのものの率について、条文に上限の数字は置かれていません。
歯止めは変更命令という形で入っている
一 特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。 二 手数料の種類、額その他手数料に関する事項が明確に定められていないことにより、当該手数料が著しく不当であると認められるとき。
(出典:職業安定法 第三十二条の三 第四項各号)
この2つに当たると認めるとき、厚生労働大臣は期限を定めて手数料表の変更を命ずることができます。
命令に違反した場合は、職業安定法第66条第2号により30万円以下の罰金の対象になります。
職種別の手数料率は開示されている
厚生労働省は、個々の職業紹介事業者に職種別の手数料率実績の開示義務を課したと公表しています。
同省の資料は、その開示情報等に基づいて職種ごとの傾向を整理しています。
それによると、医師、看護、保育、介護、一般事務・秘書・受付の職業は20.1%から30.0%のレンジの割合が高いとされています。
一方、法人・団体管理職員、情報処理・通信技術者、経営・金融・保険の専門的職業、営業の職業は30.1%から40.0%のレンジの割合が高いとされています。
この手数料率は、常用就職が多い上位5職種の実績を開示したものだと注記されています。
⇒ 数字の出どころは職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について(厚生労働省)です。
転職エージェントの手数料は、令和5年度の集計で1件あたり約93万円でした
率の話が続いたので、実額の統計を置きます。
令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果
職業安定法は、職業紹介事業者に年度ごとの運営状況の報告書を厚生労働大臣へ提出するよう定めています。
その集計結果は厚生労働省が公表しており、令和5年度分は令和7年3月31日付で発表されています。
| 項目(令和5年度) | 数値 | 対前年度比 |
|---|---|---|
| 手数料収入 | 約8,362億円 | 8.6%増 |
| うち常用就職に係る手数料 | 約7,821億円 | 7.9%増 |
| 常用就職1件あたりの手数料 | 約93万円 | 1.0%減 |
| 有料職業紹介事業の常用就職件数 | 843,950件 | 9.0%増 |
| 有料職業紹介事業の新規求職申込件数 | 38,608,712件 | 34.7%増 |
出典は令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)です。
資料の注記によれば、常用とは4か月以上の期間を定めて雇用されるもの、または期間の定めなく雇用されるものを指します。
常用就職1件あたりの手数料は、常用就職件数の合計値と常用就職に係る手数料の総額から算出したものだと明記されています。
⇒ 1人が転職すると、平均でおよそ93万円が企業から紹介会社へ動いている計算になります。
この数字の読み方の注意
同じ資料は、求人者と求職者が複数の職業紹介事業者を利用する場合があるため、求人数や新規求職申込件数には重複計上があると注記しています。
また、事業報告を提出した有料職業紹介事業所は29,171事業所で、そのうち就職実績のあった事業所は13,460事業所と書かれています。
⇒ 許可を持っている事業所の半分弱しか、実際の就職実績を持っていないという数字です。
転職エージェントが手数料のルールを破ると、職業安定法の罰則がかかります
禁止規定には罰則が付いています。
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
(出典:職業安定法 第六十五条)
この第65条の第2号が、手数料の条文を名指ししています。
二 第三十二条の三第一項又は第二項の規定に違反したとき。
(出典:職業安定法 第六十五条第二号)
第32条の3第2項は、求職者から手数料を徴収してはならないと定めた条文です。
さらに第67条は、法人の従業者が違反行為をしたときは行為者を罰するほか、その法人に対しても罰金刑を科すと定めています。
許可そのものを失うこともある
職業安定法第32条の9第1項第2号は、この法律の規定に違反したときは許可を取り消すことができると定めています。
同条第2項では、期間を定めて事業の全部または一部の停止を命ずることもできるとされています。
⇒ 手数料のルールは、罰金と許可の両方で担保されている構造です。
転職エージェントは、手数料に関する事項を求職者へ明示する義務を負っています
額のルールだけでなく、伝える義務も条文にあります。
有料職業紹介事業者は、取扱職種の範囲等、手数料に関する事項、苦情の処理に関する事項その他当該職業紹介事業の業務の内容に関しあらかじめ求人者及び求職者に対して知らせることが適当であるものとして厚生労働省令で定める事項について、厚生労働省令で定めるところにより、求人者及び求職者に対し、明示しなければならない。
(出典:職業安定法 第三十二条の十三)
明示の相手に求職者が含まれている点が要点です。
手数料を払わない側にも、手数料に関する事項を知らせなければならない、という構造になっています。
扱えない職業も決まっている
職業安定法第32条の11第1項は、有料職業紹介事業者が港湾運送業務に就く職業と建設業務に就く職業を求職者に紹介してはならないと定めています。
この規定に違反した場合は、第64条第4号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です。
⇒ 有料の転職エージェントが扱える職業には、そもそも範囲の制限があります。
許可には期限がある
第32条の6第1項は、許可の有効期間を許可の日から起算して3年としています。
同条第5項により、更新を受けた場合の有効期間は5年です。
また第32条の4第2項は、許可証を事業所ごとに備え付け、関係者から請求があったときは提示しなければならないと定めています。
転職エージェントの手数料で、求職者が見るべき場所を手順にします
条文から導ける確認手順を並べます。
| 見る場所 | 何が分かるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 許可番号の有無 | 厚生労働大臣の許可を受けた事業者か | 職業安定法第30条第1項 |
| 手数料に関する事項の明示 | 誰からいくら取る仕組みか | 職業安定法第32条の13 |
| 取扱職種の範囲等 | その職種を扱う届出があるか | 職業安定法第32条の12 |
| 自分への請求の有無 | 原則として求職者への請求は禁止 | 職業安定法第32条の3第2項 |
| 年収と職業 | 求職者手数料の例外に当たるか | 施行規則第20条第2項 |
請求された場合の考え方
求職者への請求が認められるのは、施行規則が挙げた職業に紹介された場合と、附則の6職業で求職受付手数料を取る場合だけです。
それ以外の職業で費用を求められた場合、根拠となる条文が見当たりません。
名目が「登録料」や「書類添削費」であっても、第32条の3第1項の「いかなる名義でも」に当たります。
相談先
職業紹介事業の指導監督は、厚生労働省の職業安定局需給調整事業課と都道府県労働局が担当しています。
制度の全体像は職業紹介事業パンフレット(令和7年4月・厚生労働省)にまとまっています。
求人企業の側から見た注意点は職業紹介事業者を利用する際の主なポイント(求人者の皆さまへ)に整理されています。
転職エージェントの手数料で、法令に定めがない点と公表されていない資料
条文に定めがない点と、官公庁が公表していない資料をまとめます。
届出制手数料の率について、上限の数字を定めた条文は職業安定法にも施行規則にもありません。
個別の転職エージェントが企業へ請求している金額の一覧も、官公庁の資料としては公表されていない情報です。
英語力や海外赴任を条件とする求人に限った紹介手数料の統計も、公表されていません。
手数料の返還(就職者が早期に退職した場合の返金)について定めた条文も、職業安定法には無い項目です。
転職エージェントの手数料についてよくある質問
転職エージェントが無料なのはなぜですか
職業安定法第32条の3第2項が、求職者からの徴収を原則として禁じているからです。
同法の別表と第1項第2号により、手数料は求人者または関係雇用主から取る仕組みになっています(職業安定法施行規則)。
年収の何%というのは法律で決まっていますか
上限制を選んだ場合は、施行規則の別表が賃金額の11%などの最高額を定めています。
届出制を選んだ場合は、条文に率の上限がなく、厚生労働大臣に届け出た手数料表の額によります。
求職者が費用を請求されることはありますか
芸能家とモデルのほか、年収700万円を超える科学技術者・経営管理者・熟練技能者に紹介された場合は、施行規則第20条第2項の例外に当たります。
また附則の6職業には、1件710円を限度とする求職受付手数料の経過措置があります。
手数料の額を求職者に教えてもらえますか
職業安定法第32条の13は、手数料に関する事項を求人者と求職者の双方へ明示しなければならないと定めています。
職種別の手数料率の実績については、厚生労働省が開示義務を課したと同省のページで公表しています。
転職エージェントは建設現場の仕事も紹介できますか
有料職業紹介事業者は、建設業務に就く職業と港湾運送業務に就く職業を求職者に紹介してはならないと第32条の11第1項が定めています。
違反した場合は第64条第4号の罰則の対象です。
まとめ:転職エージェントの手数料は「企業が払い、求職者は原則として払わない」
条文から言えることを3行にします。
- 求職者からの手数料徴収は、職業安定法第32条の3第2項により原則として禁止されています。
- 例外は施行規則第20条第2項が挙げる5つの職業で、うち3つには年収700万円超という条件が付きます。
- 企業から取る手数料は上限制なら賃金額の11%などが天井、届出制なら届け出た手数料表の額です。
⇒ したがって、一般の転職で求職者が費用を求められる法的な根拠は、条文の側からは出てきません。
⇒ 気にするべきは自分の負担額ではなく、その事業者が許可を持ち、手数料に関する事項を明示しているかどうかです。
この記事で使った一次資料
- 職業安定法(e-Gov法令検索)
- 職業安定法施行規則(e-Gov法令検索)
- 職業紹介事業パンフレット(令和7年4月)|厚生労働省
- 令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)|厚生労働省
- 職業紹介事業の事業報告の集計結果について|厚生労働省
- 職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について|厚生労働省
- 職業紹介事業者を利用する際の主なポイント(求人者の皆さまへ)|厚生労働省
- 職業紹介事業の業務運営要領 第6 手数料|厚生労働省
条文と統計の確認日は2026年9月12日です。
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