MENU

海外赴任と住民税|1月1日の住所で決まる仕組みを地方税法と総務省資料で確かめた

「海外赴任が決まったから、住民税はもう払わなくていい」。

赴任の話が出ると、必ずこの話が出てきます。

この記事は、その話が日本の法律と公的資料の上でどこまで成り立つのかを確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている条文と、総務省および市区町村が公開している資料だけです。

先に結論を書きます。

住民税がかかるかどうかは、出国した日ではなく、1月1日に日本国内に住所があったかどうかだけで決まります。

ですから、出国した年度の住民税は最後まで残り、住所が無い状態で迎えた1月1日の分から、はじめて丸ごとかからなくなります。

TOC

海外赴任をしても、出国した年度の住民税は最後まで残ります

いちばん誤解が多いのが、この一点です。

年度の途中で出国しても税額は減らない

住民税は、前の年の所得に対して、翌年になってから課される仕組みです。

つまり、6月に届く納税通知書は、前の年の1月から12月までに得た所得に対するものです。

横浜市は、海外赴任のための海外転出について、次のように説明しています。

毎年、1月1日時点で居住されていた市区町村に前年1年間(1月~12月)の収入から求めた住民税をお納めいただくことになります。年の途中に海外転出されても転出された年度の住民税は、全額お納めいただくことになりますが、出国後に引き続きご納付が必要な場合は、納税管理人申告書の提出が必要な場合もあります。

(出典:海外赴任のため海外転出します。住民税はどうなりますか。|横浜市青葉区)

神戸市も同じ内容を、出国を予定している人向けのページに置いています。

住民税(市県民税)は、その年の1月1日現在に居住している市町村で、前年中の所得金額が一定額以上ある方に課税されます。そのため、年の途中に出国されても、その年度の住民税(市県民税)は課税されます。

(出典:出国を予定している方の課税と支払い|神戸市)

2つの市が、別々のページで、同じことを書いています。

この記事が何を根拠にしているか

根拠にしたのは、次の3種類です。

  • e-Gov法令検索に載っている地方税法・住民基本台帳法・森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律の条文
  • 総務省自治税務局が公開している資料と解説ページ
  • 横浜市・神戸市・川崎市が公開している手続きのページ

条文に書いていないことは、この記事では書きません。

海外赴任の住民税を決めているのは「賦課期日=1月1日」という1点だけです

ここから先は、条文そのものを見ていきます。

賦課期日は地方税法第318条と第39条にある

個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

(出典:地方税法 第三百十八条(e-Gov法令検索))

道府県民税の側にも、まったく同じ文言の条文があります。

個人の道府県民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

(出典:地方税法 第三十九条(e-Gov法令検索))

年度の初日は4月1日です。

その年度の初日が属する年の1月1日、つまり年度が始まる3か月前の元日が基準になります。

誰にかかるかは第294条第1項第1号

市町村内に住所を有する個人

(出典:地方税法 第二百九十四条第一項第一号(e-Gov法令検索))

条文に「日本人」「外国人」「赴任」という区分はありません。

基準は住所の有無だけです。

その住所をどう認定するかも、同じ条の第2項に書かれています。

前項第一号の市町村内に住所を有する個人とは、住民基本台帳法の適用を受ける者については、当該市町村の住民基本台帳に記録されている者をいう。

(出典:地方税法 第二百九十四条第二項(e-Gov法令検索))

住民票をどう動かしたかが、そのまま住民税の話につながる仕組みです。

総務省の資料も同じ読み方をしている

総務省自治税務局市町村税課が令和7年8月26日付で公開している資料「出国者等に係る個人住民税の調査等」には、この2つの条文を引いたうえで次の1行があります。

納税義務は国籍に関わらず住所の有無によって決定される。

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等(令和7年8月26日 資料6)|総務省自治税務局市町村税課)

海外赴任で住民税がかからなくなるのは、1月1日に住所が無い年度からです

同じ総務省の資料が、出国のパターンを2つに分けて図解しています。

ケース1:翌年の1月1日に住所が無い場合

個人住民税は、前年の所得に対して賦課期日である翌年の1月1日に住所のある者に対して課税されるため、所得を得ていてもその翌年の1月1日に国内に住所がない場合は課税されない。

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

ケース2:賦課期日の後に出国した場合

国籍に関わらず、賦課期日時点の住所の有無により納税義務は確定するため、出国した場合においても、その納税義務は消滅しない。

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

1月1日を1日でも過ぎてから出国すれば、その年度分は最後まで付いてきます。

川崎市が具体的な日付で示している例

川崎市のよくある質問には、実際の日付を入れた例が載っています。

たとえば、川崎市に住んでいる人が令和7年7月1日付けで2年間外国に転勤することになり、同日に出国した場合は、令和8年1月1日現在は日本を出国しており、また、2年間の海外勤務のため1年以内に再び国内に居住するとは考えられませんので、国内に住所がないことから令和8年度の個人住民税(市民税・県民税)・森林環境税は課税されません。

(出典:昨年から外国で勤務している場合の個人住民税・森林環境税について知りたい。|川崎市)

ただし、同じページには逆向きの注意も書かれています。

たまたま1月1日に出国していた方でも、その方の出国の期間、目的、出国中の居住の状況などから単に旅行にすぎないと判断される場合には、出国前に居住していたところに住所があるものとして取り扱われます。

(出典:川崎市よくある質問(FAQ))

年末年始だけ日本を離れる、という形では住所は動きません。

出国時期と課税年度の対応を表にする

出国した時期直後の年度分翌年度分
1月1日より前に出国し、住民票も国外へ移したかからないかからない
1月2日から3月31日までに出国全額かかる(賦課期日に住所あり)かからない
4月1日から12月31日までに出国全額かかるかからない
出国したが住民票を日本に残したまま住民基本台帳に記録があれば課税される同左

この表の「かからない」は、あくまで1月1日に国内に住所が無いと認定される場合の話です。

海外赴任の前に、住民税を給与から一括徴収してもらう方法があります

残った税額を出国前に片づける仕組みが、条文に用意されています。

根拠は地方税法第321条の5第2項のただし書き

総務省の資料は、この長いただし書きを次のように要約しています。

以下①②の場合には、納税義務者に対して翌年の5月31日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等の合計額が残税額を超えるときは、特別徴収義務者は残税額を一括徴収しなければならない。① 6月1日から12月31日までの間に退職等の事由によって特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなり、かつ、納税義務者本人から翌月以降の残税額を特別徴収の方法によって一括徴収されたい旨の申出があった場合 ② 翌年の1月1日から4月30日までの間において特別徴収義務者から給与の支払を受けなくなった場合

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

元の条文は地方税法第321条の5第2項にあります。

ここで大事なのは、6月から12月の間は本人の申出が要件になっている点です。

一方で、1月から4月の間は申出の有無にかかわらず一括徴収の対象になります。

総務省の解説ページも同じ整理をしている

本人から申出がある場合は、退職時に支給する給与や退職金から残りの住民税を一括して徴収することができます。(※)1~5月に退職する場合は、申出の有無にかかわらず一括徴収を行っていただく必要があります。

(出典:外国人の方の個人住民税について|総務省)

このページは外国人労働者と雇用する事業者に向けたものですが、説明されているのは地方税法の仕組みそのものです。

条文の側に国籍による区分が無いことは、すでに第294条で確認したとおりです。

時期別の扱いを表にする

給与の支払を受けなくなる時期一括徴収の扱い本人の申出
6月1日から12月31日申出があれば一括徴収必要
翌年1月1日から4月30日一括徴収の対象不要
いずれの場合も5月31日までに支払われる給与・退職手当等が残税額を超えることが条件―

退職金が出る赴任・転籍であれば、残税額をそこから引ける可能性が高いということです。

海外赴任中の住民税は、納税管理人が代わりに納めるのが原則です

一括徴収で払い切れない分をどうするかが、次の論点です。

地方税法第300条が定める義務

市町村民税の納税義務者は、納税義務を負う市町村内に住所、居所、事務所、事業所又は寮等を有しない場合においては、納税に関する一切の事項を処理させるため、当該市町村の条例で定める地域内に住所、居所、事務所若しくは事業所を有する者のうちから納税管理人を定めてこれを市町村長に申告し、又は当該地域外に住所、居所、事務所若しくは事業所を有する者のうち当該事項の処理につき便宜を有するものを納税管理人として定めることについて市町村長に申請してその承認を受けなければならない。

(出典:地方税法 第三百条第一項(e-Gov法令検索))

文末は「しなければならない」です。

総務省の資料も、この条文を引いたうえで納税管理人への委任を原則として示しています。

賦課期日後に納税義務者が国外へ転出する場合は、納税管理人に納付を委任することが原則。

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

誰を納税管理人にできるのか

横浜市は、親族に限らないことを明記しています。

納税義務者の親族であることは問いませんので、ご友人の方や法人を指定することも可能です。

(出典:納税管理人に関する手続きについて|横浜市)

総務省の資料には、市町村からの聞き取りとして具体例が並んでいます。

納税義務者の親族、知人/司法書士、弁護士、会計士、税理士、不動産管理会社 など

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

納税管理人は納税義務を負わない

納税管理人は納税義務を負うものではありませんので、万が一市税が滞納となった場合における滞納処分は納税義務者本人に対して行われます。

(出典:納税管理人に関する手続きについて|横浜市)

頼まれた側が背負うのは手続きであって、税金そのものではありません。

海外赴任でも住民税の納税管理人を立てなくてよい場合があります

第300条には第2項があり、ここが抜け道ではなく正規の例外です。

前項の規定にかかわらず、当該納税義務者は、当該納税義務者に係る市町村民税の徴収の確保に支障がないことについて市町村長に申請してその認定を受けたときは、納税管理人を定めることを要しない。

(出典:地方税法 第三百条第二項(e-Gov法令検索))

この認定を受けた例として、総務省の資料は次の3つを挙げています。

口座振替している場合/出国前に全額納付する場合/特別徴収が継続される場合 など

(出典:出国者等に係る個人住民税の調査等|総務省)

神戸市も、納税管理人の選任と並べて別の支払い方法を案内しています。

  • 日本にいる人を納税管理人として指名する
  • 出国する前に支払う(そのための納付書を発行してもらう)
  • 日本の銀行口座から引き落とす
  • クレジットカードで地方税お支払サイトから納付する

出典は神戸市の「出国を予定している方の課税と支払い」です。

日本の口座を残したまま赴任するなら、納税管理人を立てずに済む可能性があります。

ただし、認定を出すかどうかを決めるのは市町村長です。

自分で「不要だ」と判断して届け出ないことは、条文の想定していない動きになります。

海外赴任の住民税で押さえる期限と提出先を手順にします

期限を1つだけ覚えるなら、出国日の10日前です。

納税管理人の申告期限

納税義務者が国外へ転出(出国)する日の10日前までに提出してください。なお、10日目が土曜日、日曜日又は祝祭日にあたるときは、これらの前開庁日が期限となります。

(出典:納税管理人に関する手続きについて|横浜市)

これは横浜市の運用であり、期限は市区町村ごとに条例で定められます。

提出先は「賦課期日現在の住所地」

以下の書類を賦課期日(1月1日)現在における住所地の区役所税務課市民税担当に提出してください。

(出典:納税管理人に関する手続きについて|横浜市)

引っ越してから出国する場合、提出先は最後に住んだ市区町村とは限りません。

住民票の側でやることは転出届

転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。

(出典:住民基本台帳法 第二十四条(e-Gov法令検索))

住民基本台帳法第4条は、住民の住所について、地方自治法が定める住所と異なる意味に解釈してはならないと定めています。

住民票の異動と税の住所は、別々に動く仕組みにはなっていません。

普通徴収になったときの納期

普通徴収の方法によつて徴収する個人の市町村民税の納期は、六月、八月、十月及び一月中(当該個人の市町村民税額が均等割額に相当する金額以下である場合にあつては、六月中)において、当該市町村の条例で定める。

(出典:地方税法 第三百二十条(e-Gov法令検索))

納期は年4回で、最後の1回は翌年の1月です。

納期前にまとめて納めることは、第321条が認めています。

やることを表にする

いつやること根拠
出国が決まったとき会社に一括徴収の申出をするか確認する地方税法第321条の5第2項
出国日の10日前まで(横浜市の場合)納税管理人申告書を提出する地方税法第300条第1項
同上口座振替や事前全納で足りるなら、認定の申請を相談する地方税法第300条第2項
出国前転出届を市町村に出す住民基本台帳法第24条
6月・8月・10月・翌1月普通徴収分を納める地方税法第320条

海外赴任で住民税と一緒に止まる税金、止まらない税金があります

賦課期日が1月1日なのは、住民税だけではありません。

森林環境税は住民税と一緒に止まる

この法律の施行地に住所を有する個人に対しては、この法律により、国が均等の額により森林環境税を課する。

(出典:森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律 第三条(e-Gov法令検索))

森林環境税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

(出典:森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律 第六条(e-Gov法令検索))

同法第5条は、税率を1,000円と定めています。

個人住民税の均等割の標準税率は、市町村民税が3,000円(第310条)、道府県民税が1,000円(第38条)です。

これらは税額そのものなので、税込・税抜という区分はありません。

税目標準税率根拠条文
市町村民税の均等割3,000円地方税法第310条
道府県民税の均等割1,000円地方税法第38条
森林環境税1,000円森林環境税法第5条

川崎市のよくある質問が「個人住民税・森林環境税は課税されません」とセットで書いているのは、賦課期日が同じだからです。

固定資産税は止まらない

固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

(出典:地方税法 第三百五十九条(e-Gov法令検索))

固定資産税は「住所」ではなく、1月1日時点の固定資産の所有者にかかります。

そのため、日本に自宅や土地を残して赴任する場合、住民税が止まっても固定資産税は続きます。

この場合は、固定資産税の側でも納税管理人が必要になります。

根拠は第355条第1項で、書きぶりは第300条とほぼ同じです。

都市計画税については、第702条の5が「固定資産税の納税管理人がそのまま都市計画税の納税管理人になる」と定めています。

海外赴任の住民税で、法令に数字の基準がない3つの点

よく聞かれるのに、条文に数字の基準が無いものを3つ並べます。

「何年以上の赴任なら非課税」という年数の基準

地方税法の中で「一年以上」という語が出てくるのは3か所です。

いずれも第二次納税義務の期間と固定資産評価審査委員会の委員の任期に関するもので、住所の認定とは関係がありません。

総務省の「外国人の方の個人住民税について」のページにも、年数を基準にする記載は1件もありませんでした。

川崎市が「1年以内に再び国内に居住するとは考えられません」と書いているのは、住所の有無を判断する材料の説明であって、法律上の年数要件ではありません。

「単なる旅行」と認定される具体的な日数

川崎市は「出国の期間、目的、出国中の居住の状況など」を挙げていますが、何日以内なら旅行なのかという数字は示していません。

日数の線引きを書いた公的資料は公表されていません。

市区町村ごとの提出期限

納税管理人の申告期限は条例事項で、たとえば横浜市は「出国日の10日前まで」としています。

他の市区町村の期限は、それぞれの市区町村の案内で確認してください。

海外赴任の住民税についてよくある質問

6月に出国したら、その年度の住民税はどうなりますか

その年の1月1日に国内に住所があった以上、その年度分は全額が残ります。

横浜市は「年の途中に海外転出されても転出された年度の住民税は、全額お納めいただくことになります」と書いています。

住民票を日本に残したまま赴任した場合はどうなりますか

地方税法第294条第2項は、住民基本台帳に記録されている者を「市町村内に住所を有する個人」としています。

記録が残っていれば、その1月1日は住所があるものとして扱われることになります。

納税管理人は会社に頼めますか

横浜市は「ご友人の方や法人を指定することも可能です」としており、法人を排除していません。

実際に引き受けてもらえるかは、勤務先の運用によります。

出国前に全額払ってしまうことはできますか

地方税法第321条は、到来した納期の分を納めるときに、その後の納期の分もあわせて納付できると定めています。

神戸市も、出国前に支払うための納付書を発行すると案内しています。

帰国したら住民税はいつから戻りますか

賦課期日の考え方は帰国のときも同じで、1月1日に国内に住所があるかどうかで決まります。

帰国して住民票を戻した後、最初に迎える1月1日の翌年度分から課税されることになります。

まとめ:海外赴任の住民税は「出国日」ではなく「1月1日の住所」で決まります

条文から言えることを3行にします。

  • 賦課期日は1月1日で、その日に国内に住所があるかどうかだけが課税の分かれ目です(地方税法第318条・第294条)。
  • 賦課期日を過ぎてから出国しても納税義務は消えないので、一括徴収か納税管理人で払い切ることになります(第321条の5・第300条)。
  • 口座振替や出国前の全額納付で徴収に支障がないと認定されれば、納税管理人は要りません(第300条第2項)。

⇒ したがって、赴任の時期を選べるなら、1月1日をまたぐ前に出国して住民票を移すかどうかが分岐点になります。

⇒ 時期を選べないなら、見るべきは「出国日の何日前までに、どの窓口へ、何を出すか」の3点だけです。


この記事で使った一次資料

条文と公的資料の確認日は2026年9月12日です。

Let's share this post !

Author of this article

Comments

To comment

TOC