海外赴任の内示が出たあと、いちばん先に決めなければならないのは家族をどうするかです。
そして、その判断に必要な情報は、会社の規程と国の制度に分かれて置かれています。
この記事は、海外赴任の帯同について国の側が決めている部分だけを、条文と官公庁の公式ページで並べます。
体験談も、伝聞も、赴任者向けのまとめサイトも使いません。
使うのは、e-Gov法令検索の条文と、外務省・厚生労働省・文部科学省・国税庁・日本年金機構・全国健康保険協会が公表している資料だけです。
会社ごとに違う手当や住居の条件はこの記事では扱いません。
海外赴任の帯同で最初に決まるのは、家族が「日本を出る手続き」を踏むかどうかです
帯同するかしないかは、感情の話に見えて、実際は届出の有無で線が引かれます。
家族が日本を出ると、3つの届出が動き出します
| 何を | 根拠 | 出す先 |
|---|---|---|
| 在留届 | 旅券法 第16条 | 在留地を管轄する大使館・総領事館 |
| 転出届 | 住民基本台帳法 第24条 | 出国前の住所地の市区町村 |
| 被扶養者の海外特例要件の届出 | 健康保険の被扶養者認定 | 勤務先経由で日本年金機構等 |
この3つが動くかどうかが、帯同と単身赴任を分けるいちばん機械的な線です。
この記事が何を根拠にしているか
先に、この記事の作り方を書いておきます。
条文はe-Gov法令検索で本文を開いて確認したものだけを引用しています。
制度の説明は、リンク先のページを実際に開いて、そこに書かれていることだけを書いています。
海外赴任の帯同で法律上の義務になっているのは、在留届の提出です
まず、義務として書かれているものから確認します。
旅券法第16条の条文
旅券の名義人で外国に住所又は居所を定めて三月以上滞在するものは、外務省令で定めるところにより、当該地域に係る領事官に届け出なければならない。
(出典:旅券法 第十六条)
条文の読みどころは3つです。
1つ目は、対象が「旅券の名義人」であることです。
つまり、赴任者本人だけでなく、帯同する配偶者と子どももそれぞれが対象になります。
2つ目は、基準が「三月以上」であることです。
3ヶ月未満の滞在は、この条文の対象外です。
3つ目は、「しなければならない」と書かれていることです。
努力義務ではありません。
提出の窓口
外務省はオンラインでの届出を用意しています。
窓口はオンライン在留届(ORRネット)です。
帯同の判断に効く点
家族が3ヶ月以上滞在するなら、家族の分も届け出る必要があります。
⇒ 「様子を見て、良ければ半年後に呼び寄せる」という進め方をしても、その半年後の時点で同じ義務が発生します。
⇒ 帯同の時期をずらしても、届出そのものは消えません。
海外赴任の帯同で住民票をどうするかは、住民基本台帳法の条文で決まります
次は、日本側の住所の扱いです。
転出届の条文
転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。
(出典:住民基本台帳法 第二十四条)
「あらかじめ」と書かれています。
出国後ではなく、出国前の届出です。
帰国したときの条文
転入(新たに市町村の区域内に住所を定めることをいい、出生による場合を除く。(略))をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項(略)を市町村長に届け出なければならない。
(出典:住民基本台帳法 第二十二条)
帰国時は14日以内です。
同条第1項第7号は「国外から転入をした者その他政令で定める者については、前各号に掲げる事項のほか政令で定める事項」を届け出るとしています。
住民票を抜くかどうかで何が変わるか
住民票の有無は、他の制度の入口になっています。
| 影響する先 | 何が変わるか |
|---|---|
| 健康保険の被扶養者 | 令和2年4月から国内居住要件が追加された(後述) |
| 国民年金 | 海外転出時は任意加入の手続きが用意されている |
| 住民税 | 賦課の基準日の住所で扱いが変わる |
⇒ 帯同するかどうかを決める前に、家族の住民票をどうするかを会社の人事に確認しておくと、後続の手続きの順番が決まります。
海外赴任の帯同で家族の健康保険を残せるかは、海外特例要件で決まります
ここは2020年に制度が変わった部分です。
令和2年4月に国内居住要件が追加されました
日本年金機構は次のように説明しています。
令和2年4月1日以降の被扶養者の認定にあたっては、生計維持の要件に加え、日本国内に住所を有すること(住民票がある)が要件として追加されました
つまり、原則としては住民票が日本にないと被扶養者になれません。
例外として「海外特例要件」があります
同じページは、例外を5つ挙げています。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 外国において留学をする学生 |
| 2 | 外国に赴任する被保険者に同行する者 |
| 3 | 観光、保養またはボランティア活動その他就労以外の目的で一時的に海外に渡航する者 |
| 4 | 被保険者が外国に赴任している間に当該被保険者との身分関係が生じた者であって、2に掲げる者と同等と認められる者 |
| 5 | 1から4までに掲げる者のほか、渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者 |
帯同する家族は、2番目の「外国に赴任する被保険者に同行する者」に当たります。
出典は日本年金機構の同ページです。
同時に出国しなくてもよいと明記されています
厚生労働省の通知に基づく運用として、次の点が示されています。
「海外赴任への同行」という渡航目的が満たされれば、必ずしも被保険者の移動と被扶養者の移動が同時に行われる必要はなく、例えば、被保険者が海外赴任後しばらくしてから海外に渡航する家族や、被保険者が帰国した後も子どもの現地での就学等の理由によりやむを得ず現地に残る家族も、国内居住要件の例外として認める
⇒ 「先に本人が行って、子どもの学期の切れ目で家族が行く」という形でも、例外の対象から外れません。
⇒ 逆に、赴任者だけ先に帰国して家族が現地に残る形も、就学等の理由があれば対象に含まれます。
手続きに必要なもの
日本年金機構は、被扶養者現況申立書と、身分関係・生計維持関係を確認できる書類を求めています。
赴任に同行する場合は、赴任辞令や居住証明書など、渡航目的を確認できる書類が該当します。
海外赴任の帯同中に家族が現地で受診したときは、海外療養費の対象になり得ます
健康保険を残した場合、現地の医療費はどう扱われるのかを確認します。
支給の条件
全国健康保険協会は、支給の対象を次のように示しています。
日本国内で保険診療として認められている医療行為であること
(出典:海外療養費|全国健康保険協会)
さらに、治療目的の渡航は対象外です。
療養(治療)を目的で海外へ渡航し診療を受けた場合は、支給対象となりません
(出典:同上)
支給額の考え方
支給額は、海外で実際に支払った額そのものではありません。
日本国内で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額のほうが低いときはその額)から、自己負担相当額を差し引いた額です。
⇒ 医療費の水準が日本より高い国では、差額が自己負担として残ります。
⇒ 民間の海外旅行保険や会社が用意する保険との関係を、帯同を決める前に確認する必要があるのはこのためです。
申請の期限と書類
海外で治療費の支払いをした翌日から2年を経過すると、時効により申請できなくなります。
必要書類として、海外療養費支給申請書のほか、診療内容明細書、領収明細書、領収書原本と日本語訳、渡航期間を証明する書類(パスポート等)、同意書が挙げられています。
⇒ 診療内容明細書と領収明細書は現地の医療機関に記入してもらう書類です。
⇒ 帰国してからでは間に合わないため、受診したその場で依頼する必要があります。
海外赴任の帯同で年金がどうなるかは、赴任先が社会保障協定の相手国かどうかで分かれます
年金は、赴任先の国によって扱いが変わります。
社会保障協定の目的
社会保障協定は、保険料の二重負担を防ぐために加入すべき制度を二国間で調整する仕組みと、年金の受給資格を確保するために両国の加入期間を通算する仕組みの2つを持ちます。
詳細は二重加入の防止|日本年金機構にまとまっています。
発効している国
日本年金機構が公表している一覧では、協定が発効している相手国は24か国です。
| 発効年 | 相手国 |
|---|---|
| 2000年 | ドイツ |
| 2001年 | 英国 |
| 2005年 | 韓国、アメリカ |
| 2007年 | ベルギー、フランス |
| 2008年 | カナダ |
| 2009年 | オーストラリア、オランダ、チェコ |
| 2010年 | スペイン、アイルランド |
| 2012年 | ブラジル、スイス |
| 2014年 | ハンガリー |
| 2016年 | インド |
| 2017年 | ルクセンブルク |
| 2018年 | フィリピン |
| 2019年 | スロバキア、中国 |
| 2022年 | フィンランド、スウェーデン |
| 2024年 | イタリア |
| 2025年 | オーストリア |
出典は協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度|日本年金機構です。
期間通算ができない相手国があります
同じ一覧では、英国・韓国・中国・イタリアの4か国について「加入期間の通算ができない」と記載されています。
⇒ 二重加入の防止は受けられても、加入期間の通算は受けられない相手国がある、という二段構えです。
⇒ 赴任先がどちらに当たるかは、一覧の「期間通算」の欄で確認できます。
家族の国民年金
赴任者本人ではなく、帯同する配偶者の年金の扱いは別に確認が要ります。
日本年金機構は、海外転出時の国民年金について任意加入の手続きを案内しています(海外への転出/海外からの転入)。
海外赴任の帯同で子どもの教育をどうするかは、在外教育施設の分布で決まります
子どもがいる場合、帯同の可否はここで決まることが多い部分です。
文部科学省が示す3つの類型
| 類型 | 定義 | 設置状況 |
|---|---|---|
| 日本人学校 | 国内の小学校、中学校又は高等学校における教育と同等の教育を行うことを目的とする、全日制の教育施設 | 世界49か国・1地域に94校(令和6年4月15日現在)、約1万6千人 |
| 補習授業校 | 現地学校等に通学する日本人の児童生徒に対し、土曜日や放課後などを利用して国内の小学校又は中学校の一部の教科について日本語で授業を行う教育施設 | 世界51か国・1地域に242校(令和6年7月1日現在)、約2万1千人(令和6年4月15日時点) |
| 私立在外教育施設 | 国内の学校法人等が母体となり海外に設置した、全日制教育施設 | 世界に6校(令和6年4月15日現在) |
出典は在外教育施設の概要|文部科学省です。
帯同の判断に効く点
日本人学校は94校しかありません。
赴任先の都市に日本人学校があるかどうかで、選択肢が「日本人学校」「現地校+補習授業校」「インターナショナルスクール+補習授業校」に分かれます。
⇒ 赴任先の都市名で、まず日本人学校の有無を確認する順番になります。
⇒ 補習授業校しかない都市では、平日の学校をどうするかを別に決める必要があります。
海外赴任の帯同で税金の扱いが変わる分岐点は、出国の時点です
税金は、赴任期間の見込みで扱いが変わります。
非居住者と推定される基準
国税庁は、海外勤務が1年以上の見込みである場合について、原則として所得税法上の非居住者と推定されるとしています。
出典はNo.1920 海外勤務と所得税額の精算|国税庁です。
出国時の年末調整
非居住者となる場合は、国内で支払われる最後の給与のときに年末調整を行い、源泉徴収された所得税及び復興特別所得税を精算します。
扶養控除の判定時点
同じページは、扶養控除や配偶者控除について「出国時の現況で判断します」としています。
年間の所得の見積りも、出国の時点の状況で見積もることになります。
⇒ つまり、帯同する家族の控除の扱いは、出国の日を基準に決まります。
⇒ 出国の直前に家族の就労状況が変わる場合は、その時点の見込みで判断されることになります。
海外赴任の帯同を決める前に確認する順番
ここまでの制度を、確認する順に並べ直します。
会社に確認すること
赴任期間の見込みが1年以上かどうかを確認します。
帯同を認める規程があるか、条件は何かを確認します。
赴任辞令など、海外特例要件の届出に使える書類が出るかを確認します。
国の制度で自分が確認すること
| 順番 | 確認するもの | 見る場所 |
|---|---|---|
| 1 | 赴任先が社会保障協定の相手国か、期間通算はあるか | 日本年金機構の一覧 |
| 2 | 赴任先の都市に日本人学校または補習授業校があるか | 文部科学省 在外教育施設の概要 |
| 3 | 家族を被扶養者のまま残せるか(海外特例要件) | 日本年金機構の説明 |
| 4 | 現地受診時の払い戻しの範囲 | 全国健康保険協会 海外療養費 |
| 5 | 出国時の控除の判定 | 国税庁 No.1920 |
出国の前後にやること
出国前に、転出届を市区町村へ出します。
在留地に着いたら、家族の分も含めて在留届を出します。
帰国したら、14日以内に転入届を出します。
海外赴任の帯同で、法令に定めがない点と公表されていない統計
条文に定めがない点と、官公庁が公表していない統計をまとめます。
帯同手当の相場は、官公庁の統計として公表されていません。
帯同を認めるかどうかの基準も、法令の条文には無い項目です。
帯同率(赴任者のうち家族を帯同した割合)を示した基幹統計も、公表されていません。
会社ごとの手当や住居の条件は、就業規則と海外赴任規程で確認する部分です。
海外赴任の帯同についてよくある質問
家族の在留届も必要ですか
旅券法第16条は「旅券の名義人で外国に住所又は居所を定めて三月以上滞在するもの」を対象としています(e-Gov法令検索)。
旅券の名義人ごとの義務なので、帯同する家族も対象です。
住民票は必ず抜かなければなりませんか
住民基本台帳法第24条は、転出をする者に対して、あらかじめ届け出ることを求めています(e-Gov法令検索)。
抜くかどうかではなく、転出に当たるかどうかで決まります。
判断は市区町村の窓口が行うため、赴任期間の見込みを伝えて確認する形になります。
家族が後から行く場合も健康保険は残せますか
「海外赴任への同行」という渡航目的が満たされれば、被保険者の移動と被扶養者の移動が同時である必要はないとされています(厚生労働省の通知)。
現地の病院代は全額戻ってきますか
戻る額は、日本国内で同じ傷病を治療した場合の費用を基準に計算されます。
海外で支払った額のほうが高い場合、その差額は戻りません(全国健康保険協会)。
赴任先に日本人学校がない場合はどうなりますか
日本人学校は世界49か国・1地域に94校です(令和6年4月15日現在)。
補習授業校は242校あります(令和6年7月1日現在)。
いずれも無い都市では、現地校またはインターナショナルスクールを選ぶことになります(文部科学省)。
赴任先が社会保障協定を結んでいない国の場合はどうなりますか
一覧に載っていない国では、二重加入の防止も期間通算も協定による調整は受けられません。
相手国の制度への加入がどうなるかは、その国の制度に従います(日本年金機構)。
まとめ:海外赴任の帯同は「気持ち」ではなく「3ヶ月」「1年」「住民票」の3つの線で決まります
条文から言えることを3行にします。
- 家族が3ヶ月以上滞在するなら、旅券法第16条により家族それぞれに在留届の義務が生じます。
- 赴任が1年以上の見込みなら、国税庁の説明では原則として非居住者と推定され、控除は出国時の現況で判断されます。
- 住民票を抜いても、赴任に同行する家族は健康保険の海外特例要件により被扶養者として残せる道があります。
⇒ したがって、最初に確定させるべきは赴任期間の見込みです。
⇒ そこが決まると、在留届・転出届・被扶養者の届出の3つが自動的に決まります。
この記事で使った一次資料
- 旅券法(e-Gov法令検索)
- 住民基本台帳法(e-Gov法令検索)
- オンライン在留届(ORRネット)|外務省
- 従業員の家族が海外居住の場合の手続き|日本年金機構
- 海外への転出/海外からの転入|日本年金機構
- 協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度|日本年金機構
- 二重加入の防止|日本年金機構
- 海外療養費|全国健康保険協会
- 在外教育施設の概要|文部科学省
- No.1920 海外勤務と所得税額の精算|国税庁
- 被扶養者の国内居住要件等について|厚生労働省
条文と資料の確認日は2026年9月8日です。
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