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退職証明書は請求できるのか──労働基準法第22条が会社に義務づけている5項目を条文で確かめる

「退職証明書を出してもらえますか」。

転職先から言われて、前の会社に連絡するかどうかで止まる場面があります。

この記事は、退職証明書が会社に何をどこまで義務づけている書類なのかを、条文の上で確かめます。

体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。

使うのは、e-Gov法令検索に載っている労働基準法の条文だけです。

先に結論を書きます。

退職証明書は、労働者が請求してはじめて会社の交付義務が生まれる書類です。会社が自発的に出す紙ではなく、条文は請求を交付義務の条件にしています。

条文の確認日は2026年9月17日です。

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退職証明書は、請求があってはじめて交付義務が生まれる書類です

検索されている問いの答えを先に置きます。

この書類を請求できるかどうかについて、条文ははっきり書いています。

請求できます。

そして、請求を受けた会社の側には「交付しなければならない」という義務が書かれています。

ただし義務の引き金は請求です。請求していない状態で「もらえない」のは、条文の上では会社の違反になりません。

以下、その根拠を条文で出します。

退職証明書の根拠は、労働基準法第22条第1項です

この書類を定めている条文は1つです。

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(出典:労働基準法 第二十二条第一項(退職時等の証明))

条文の見出しは「退職時等の証明」です。

法律の中に「退職証明書」という言葉そのものは置かれていません。

条文が使っているのは「証明書」です。

この1項から読み取れる構造は3つに分かれます。

1つ目は、請求できる人が「労働者」で、場面が「退職の場合」だということです。

2つ目は、証明できる中身が列挙されているということです。

3つ目は、交付の期限が日数ではなく「遅滞なく」と書かれていることです。

退職証明書に書ける項目は、条文が5つに限っています

第22条第1項が並べている項目を、条文の語のまま取り出します。

条文の語何を証明するか
使用期間その会社に雇われていた期間
業務の種類担当していた仕事の種類
その事業における地位社内での地位
賃金賃金
退職の事由退職した理由(解雇の場合はその理由を含む)

5つです。

条文は項目を「又は」でつないでいます。

5つ全部を入れた1枚を求める書き方にはなっておらず、必要な項目を選んで請求する形が読み取れます。

そして退職の事由については、括弧で条件が足されています。

退職の事由が解雇の場合には、その理由も含まれると書かれています。

この5項目より外のもの、たとえば人事評価や勤務態度の評定は、この列挙に入っていません。

退職証明書に請求しない事項を書くことは、第22条第3項が禁じています

書ける項目に上限があることは、次の項で明示されています。

前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

(出典:労働基準法 第二十二条第三項)

禁止されているのは「請求しない事項を記入」することです。

つまり請求の仕方が、そのまま書面の中身の範囲を決めます。

退職の事由を書かれたくない場合に、事由を外して請求するという選び方が、この2つの項から読み取れます。

さらに第4項は、別の角度から書面の使われ方を縛っています。

使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

(出典:労働基準法 第二十二条第四項)

条文は「秘密の記号を記入してはならない」という言い方で、書面に符号を仕込むことまで名指しで禁じています。

退職証明書と解雇理由証明書は、同じ第22条の別の項です

混同されやすい2枚は、条文の上では項が違います。

労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

(出典:労働基準法 第二十二条第二項)

第1項と第2項の違いは、請求できる時期です。

第1項は「退職の場合」=退職した後、第2項は「解雇の予告がされた日から退職の日までの間」=まだ在籍している間です。

第2項が指している第20条第1項は、解雇の予告を定めた条文です。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。

(出典:労働基準法 第二十条第一項(解雇の予告))

第2項にはただし書きが付いていて、交付を要しなくなる場合が書かれています。

解雇の予告がされた後に、その解雇以外の事由で退職した場合は、退職の日以後の交付が不要になります。

ただしこの場合も、退職した後であれば第1項の側の請求が残ります。

退職証明書を交付しない会社には、第120条の罰金が置かれています

義務に違反した場合の条文も、法律の側にあります。

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

(出典:労働基準法 第百二十条)

この条の第1号が、対象になる条文を列挙しています。

その列挙の中に、第22条が入っています。

第二十二条第一項から第三項まで、第二十三条から第二十七条まで

(出典:労働基準法 第百二十条第一号)

入っているのは第22条の第1項から第3項までです。金額は三十万円以下の罰金と書かれています。

また第121条は、事業主にも罰金刑を科す場合を定めています。

この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。

(出典:労働基準法 第百二十一条第一項)

ただし同項にはただし書きがあり、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合は科されない形になっています。

退職証明書の「遅滞なく」に、日数の定めはありません

いつ届くのかは、この条文ではっきりしません。

第22条第1項と第2項が置いている言葉は「遅滞なく」です。

何日以内という数字は、第22条のどの項にも書かれていません。

これは、同じ退職まわりの条文が数字を持っているのと対照的です。

比較のために、隣の条文を出します。

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

(出典:労働基準法 第二十三条第一項(金品の返還))

第23条は「七日以内」と数字で切っていますが、第22条は数字を持っていません。

同じ条文群の中で書き分けられているので、第22条に日数の縛りが無いことは条文の書き方から言えます。

2つの条文の違いを、表にして並べます。

比べるもの退職証明書(第22条)金品の返還(第23条)
引き金労働者の請求権利者の請求
期限遅滞なく(日数なし)七日以内
罰則第120条第1号(三十万円以下の罰金)第120条第1号(三十万円以下の罰金)

退職証明書を何年前の退職まで請求できるかは、第22条に書かれていません

古い退職について請求できるのかという点も、条文を見ます。

第22条第1項の条件は「退職の場合において」だけで、退職からの経過期間を区切る語はありません。

請求できる期間の上限を定めた文は、第22条の中に見当たりませんでした。

関係しそうな条文として、会社側の書類の保存義務があります。

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

(出典:労働基準法 第百九条(記録の保存))

この条文が置いている数字は「五年間」です。

ただしこれは書類の保存義務で、退職証明書を請求できる期間を定めた条文ではありません。

2つは別の条文なので、この記事では「五年で請求できなくなる」とは書きません。

退職証明書を請求する相手は、条文上の「使用者」です

誰に言えばよいのかも、条文で範囲が決まっています。

第22条第1項が義務を負わせている相手は「使用者」です。

この使用者という言葉には、同じ法律の中に定義が置かれています。

この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

(出典:労働基準法 第十条)

定義は社長だけに絞られておらず、労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者が入ります。

人事や労務の担当者も、この定義の射程に入る書き方です。

ただし、社内の誰に宛てて請求すべきかを指定した条文は、第22条にはありません。

また、就業規則の側にも退職に関する定めが置かれることがあります。

退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(出典:労働基準法 第八十九条第三号(作成及び届出の義務))

第89条は、常時十人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけている条文です。

退職に関する事項はその第3号に入るので、社内の手続きの窓口は就業規則に書かれている可能性があります。

退職証明書と離職票・源泉徴収票は、根拠の法律が違います

退職のときに出てくる書類は複数あり、根拠がそれぞれ別の法律にあります。

離職票の根拠は、労働基準法ではなく雇用保険法施行規則です。

雇用保険被保険者離職証明書(様式第五号。以下「離職証明書」という。)及び賃金台帳その他の離職の日前の賃金の額を証明することができる書類

(出典:雇用保険法施行規則 第七条第一項第一号(被保険者でなくなつたことの届出))

こちらは会社がハローワークへ出す届出に添える書類で、本人の請求を義務の条件にしていません。

源泉徴収票の根拠は、さらに別の法律にあります。

その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。

(出典:所得税法 第二百二十六条第一項(源泉徴収票))

源泉徴収票には「その退職の日以後一月以内」という数字の期限があり、請求は交付の条件になっていません。

3つの書類の違いを、根拠と引き金で並べます。

書類根拠の条文交付の引き金
退職証明書労働基準法 第二十二条第一項労働者の請求
離職証明書・離職票雇用保険法施行規則 第七条会社の資格喪失届(本人の希望で離職票を省ける場合あり)
源泉徴収票所得税法 第二百二十六条請求は不要(退職の日以後一月以内)

3つのうち、請求しなければ出てこないのは退職証明書だけです。

退職証明書が出てこないときの窓口は、第104条が定めています

請求したのに交付されない場合に、条文が用意している道があります。

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

(出典:労働基準法 第百四条第一項(監督機関に対する申告))

第22条は労働基準法の条文なので、その違反はこの申告の対象に入ります。

条文が「することができる」と書いているのは労働者の側の行為で、義務ではありません。

そして同条の第2項が、申告した後のことを定めています。

使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

(出典:労働基準法 第百四条第二項)

禁じられているのは「申告をしたことを理由として」の不利益な取扱です。

ただし、申告を受けた行政側が具体的に何をするかは、この条文には書かれていません。

条文に書かれていないので、この記事では申告後に退職証明書が交付されるかどうかを断定しません。

退職証明書について、条文では確かめられなかったこと

この記事で読んだ条文の中に、答えが書かれていなかった論点を並べます。

  • 「遅滞なく」が何日を指すか=第22条に日数の定めはありません
  • 請求の方法が口頭でよいか書面が要るか=第22条は方法を書いていません
  • 様式や書式=第22条に様式の定めはありません
  • 退職から何年まで請求できるか=期間の上限を定めた文は見当たりませんでした
  • 発行手数料を会社が取れるか=費用について書いた文は見当たりませんでした
  • 交付の回数に上限があるか=回数を制限する文はありません

条文に書かれていない6点について、この記事は答えを断定しません。

退職証明書について言われている話を、条文と突き合わせます

よく流れてくる言い方を、ここまでの条文に当てて並べます。

  • 「退職したら会社が自動で発行する」=ずれます。第二十二条第一項は請求を交付義務の条件にしています
  • 「会社は断れる」=条文とずれます。請求があれば「遅滞なくこれを交付しなければならない」と書かれています
  • 「退職理由を勝手に書かれる」=条文は逆を書いています。第三項が請求しない事項の記入を禁じています
  • 「解雇理由証明書と同じ紙」=別の項です。退職後は第一項、予告から退職日までの間は第二項です
  • 「出さなくても会社に罰はない」=当たりません。第百二十条第一号が第二十二条第一項から第三項までを対象にしています
  • 「5年で請求できなくなる」=この記事では確かめられませんでした。五年間は第百九条の書類の保存義務の数字です

6つのうち5つは、条文の書き方とずれています。

退職証明書について、この記事で確かめたこと

条文から確かめられたのは、次の点です。

  • 根拠は労働基準法第二十二条第一項で、見出しは「退職時等の証明」です
  • 交付義務の引き金は、労働者の請求です
  • 証明できる項目は、使用期間・業務の種類・その事業における地位・賃金・退職の事由の5つです
  • 退職の事由が解雇の場合は、その理由も含まれます
  • 請求しない事項を書くことは、第三項で禁じられています
  • 秘密の記号を記入することは、第四項で禁じられています
  • 解雇の理由についての証明書は、第二項が予告日から退職日までの間の請求として別に定めています
  • 違反には第百二十条第一号の三十万円以下の罰金が置かれています

逆に、条文から確かめられなかったのは「遅滞なくの日数」と「請求できる期間の上限」です。

個別の事情に当てはめた判断は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーまたは弁護士の領域です。


この記事で使った一次資料

条文の確認日は2026年9月17日です。

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