「退職届は1か月前までに出さないと辞められない」。
転職の相談になると、まずこの話が出てきます。
この記事は、その「1か月前」がどこから来ている数字なのかを確かめます。
体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。
使うのは、e-Gov法令検索に載っている条文と、厚生労働省が公表している資料だけです。
先に結論を書きます。
退職届をいつまでに出すかについて法律が置いている数字は「二週間」であり、「1か月前」は条文の数字ではありません。
「1か月前」が出てくるのは就業規則の側で、条文の側ではありません。
条文と公表資料を確認した日は2026年9月16日です。
退職届はいつまでに出すのか──法律が置いている数字は「二週間」です
最初に、いちばん効く条文を置きます。
期間の定めのない雇用、つまり正社員のような無期契約で働いている場合に効くのは民法第六百二十七条です。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
条文には「退職届」という語も「退職願」という語も出てきません。
書かれているのは「解約の申入れ」という行為と、「二週間を経過することによって終了する」という効果だけです。
つまり条文が定めているのは、書類の名前ではなく、申し入れてから雇用が終わるまでの日数です。
「会社が承認したら」とは条文に書かれていません
第六百二十七条第一項の文には、使用者の承諾を必要とする文言がありません。
厚生労働省も、モデル就業規則の解説でこの点を明示しています。
会社の承認がなくても、民法(明治29年法律第89号)の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは、退職となります(民法第627条第1項)。
同じ解説は、申し出そのものについても次のように書いています。
期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができます。
⇒ 条文の側でも、行政の解説の側でも、無期雇用の退職に会社の承認は要件になっていません。
この記事が何を根拠にしているか
先に、この記事の作り方を書いておきます。
条文はe-Gov法令検索の本文を開いて、そこにある文字列だけを引用しています。
行政の説明は、厚生労働省が公開しているページとPDFを開いて、そこに載っている文だけを引用しています。
退職届をいつまでに出すかは、契約の型によって根拠条文が変わります
「二週間」がそのまま当てはまるのは、期間の定めのない契約の場合だけです。
有期契約や、報酬の決め方が特殊な場合は、別の条文が顔を出します。
先に全体を表にします。
| 契約の型・場面 | 根拠条文 | 条文が置いている日数 |
|---|---|---|
| 期間の定めのない雇用(労働者からの申入れ) | 民法第627条第1項 | 申入れの日から二週間を経過することによって終了 |
| 期間によって報酬を定めた場合(使用者からの申入れ) | 民法第627条第2項 | 次期以後について、当期の前半に申入れ |
| 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合(使用者からの申入れ) | 民法第627条第3項 | 三箇月前 |
| 雇用の期間が五年を超える/終期が不確定 | 民法第626条第2項 | 労働者であるときは二週間前に予告 |
| 期間の定めのある雇用(やむを得ない事由あり) | 民法第628条 | 直ちに契約の解除をすることができる |
| 一年を超える有期契約で、初日から一年を経過した後 | 労働基準法附則第137条 | 申し出ることにより、いつでも退職することができる |
表の右の列は、どれも条文の文言から取ったものです。
日数を置いているのは法律であって、就業規則ではありません。
月給制の人の退職届に「次期以後」の縛りがかかるのかを条文で確かめる
民法第六百二十七条には第二項と第三項があります。
ここで、月給制の人が「月の前半に出さないと翌月末まで辞められない」と言われることがあります。
その話の出どころは第二項ですが、現行の条文は主語を限定しています。
期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
文の主語は「使用者からの解約の申入れ」です。
労働者からの申入れについては、この項に文言がありません。
第三項も同じ構造です。
六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
「前項の解約の申入れ」とあり、前項は使用者からの申入れを指しています。
⇒ 労働者の側から退職届を出す場面で、条文の文言として残る数字は第一項の「二週間」です。
年俸制でも条文の書き方は同じです
年俸制は「六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合」に当たり得ます。
ただし第三項の主語も、第二項を受けた使用者からの申入れです。
労働者からの申入れに三箇月前を求める文言は、民法の本文にはありません。
有期契約の人が退職届を出せるのはいつからか──民法第628条と労働基準法附則第137条
契約期間が決まっている場合、原則は「期間の途中では抜けられない」です。
その例外を置いているのが民法第六百二十八条です。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
条文は「やむを得ない事由」の中身を列挙していません。
この記事では、何が「やむを得ない事由」に当たるかを条文の文言から特定することはできませんでした。
一年を超える有期契約には、条文の側に出口が置かれています
労働基準法の附則第百三十七条は、有期契約の労働者に退職の道を1本だけ開いています。
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
この条文は「やむを得ない事由」を求めていません。
求めているのは、契約期間が一年を超えることと、初日から一年を経過していることの2つだけです。
ただし括弧書きで外れる人がいます。
- 一定の事業の完了に必要な期間を定める契約の人
- 第十四条第一項各号に規定する労働者(高度の専門的知識等を有する労働者、満六十歳以上の労働者)
この2つは条文の括弧の中に書かれている除外です。
就業規則の「1か月前」と退職届の関係を条文で整理する
「1か月前」は法律の数字ではありません。
就業規則に会社が書いた数字です。
では就業規則はどこまで効くのか。
まず、退職に関する事項は就業規則に必ず書く項目とされています。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
その第三号が「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」です。
厚生労働省のモデル就業規則も、解説でこう書いています。
退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。
就業規則が労働契約の中身になる条件
就業規則が労働条件になるための条件は、労働契約法第七条が置いています。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
(出典:労働契約法 第七条(e-Gov法令検索))
条文が置いている条件は2つ=「合理的な労働条件」と「周知させていた」です。
就業規則が法令に反したときの条文
法令との上下関係を書いているのが労働契約法第十三条です。
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
この記事では、就業規則の「1か月前」が民法第六百二十七条に反するかどうかを、条文の文言だけから断定することはできませんでした。
確認できるのは、法律の側が置いた数字は二週間であり、1か月という数字は民法にも労働基準法にも書かれていない、という事実までです。
なお、モデル就業規則の第52条本文は、日数の部分を空欄にしたまま「退職願を提出して 日を経過したとき」という形で示されています。
つまり行政のひな形でも、この日数は法律が決め打ちしている数字としては扱われていません。
退職届を出したあと、会社の側に条文で期限が切られている手続があります
退職する人が気にすべき期限は、出す側だけではありません。
受け取った会社の側にも、条文で日数が切られている義務があります。
金品の返還は七日以内
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
条文が七日以内と書いているのは、権利者の請求があった場合です。
⇒ 請求をしていないと、この七日は動き出しません。
退職時の証明書は「遅滞なく」
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
ここも日数ではなく「遅滞なく」です。
そして第三項は、請求していない事項を書き込むことを禁じています。
| 場面 | 条文 | 条文の中の期限の書き方 |
|---|---|---|
| 賃金・積立金・貯蓄金などの返還 | 労働基準法第23条第1項 | 七日以内(権利者の請求があった場合) |
| 退職時の証明書の交付 | 労働基準法第22条第1項 | 遅滞なく |
| 解雇の理由の証明書 | 労働基準法第22条第2項 | 遅滞なく |
| 証明書への余計な記載 | 労働基準法第22条第3項 | 労働者の請求しない事項を記入してはならない |
退職届を出したら違約金を請求すると言われた場合の条文
労働基準法は、契約を破ったときの金額をあらかじめ決めておくことを禁じています。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
禁じられているのは「違約金を定める」ことと「損害賠償額を予定する」ことです。
実際に生じた損害の賠償請求そのものを禁じる文言は、この条文にはありません。
また、法律の基準を下回る契約の扱いは第十三条が置いています。
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。
⇒ 条文が無効にするのは契約のうち「その部分」だけで、契約全体ではありません。
退職届をめぐって会社と揉めたときに条文が用意している窓口
法律違反の事実があるときの申告先は、労働基準法第百四条に書かれています。
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
同条の第二項は、申告を理由とする不利益な取扱いを禁じています。
民事のもつれについては、厚生労働省が別の窓口を用意しています。
都道府県労働局ではこれら3つの紛争解決援助制度をご用意しています。ご利用は無料です。
同じページは、利用したことによる不利益についても書いています。
労働者がこれらの制度を利用したことを理由として、事業主が労働者に対して不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。
⇒ 退職届の受け取りを拒まれた、といった民事の話は、労働基準監督署の申告ではなくこちらの制度の側です。
この記事で確かめたこと──退職届はいつまでに出せばよいのか
- 無期雇用の退職について法律が置いている数字は、民法第627条第1項の「二週間」です。
- 同項の文言に、使用者の承諾を要件とする文字はありません。
- 月給制で言われる「次期以後」「当期の前半」は、現行の第627条第2項では使用者からの申入れについて書かれています。
- 有期契約の途中退職は民法第628条の「やむを得ない事由」が原則ですが、一年を超える契約は労働基準法附則第137条が別の出口を置いています。
- 「1か月前」という数字は、民法にも労働基準法にも見当たりませんでした。
- 退職後の金品返還は労働基準法第23条で七日以内、証明書は第22条で遅滞なくと書かれています。
⇒ したがって、退職届をいつまでに出すかという問いに対して、法律の側から返ってくる答えは「二週間前」です。
⇒ 就業規則の「1か月前」は、その上に会社が重ねた社内の手続きの期限という位置づけになります。
この記事で使った一次資料
- 民法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
- モデル就業規則について|厚生労働省
- モデル就業規則 全体版(PDF)|厚生労働省
- 労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール|厚生労働省
- 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)|厚生労働省
条文と公表資料の確認日は2026年9月16日です。
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