「週20時間未満なら雇用保険には入れない」。
パート・アルバイト・契約社員で働くとき、いちばん最初に出てくる線引きです。
この記事は、その線引きが雇用保険法のどの条文に、どう書かれているのかを確かめます。
体験談も、伝聞も、転職サイトのまとめも使いません。
使うのは、e-Gov法令検索に載っている雇用保険法と雇用保険法施行規則の条文、そして厚生労働省とハローワークインターネットサービスが公表している資料だけです。
先に結論を書きます。
雇用保険法には「加入条件」という見出しの条文がありません。条件は、第4条の被保険者の定義と、第6条の適用除外を裏返して決まります。
実務で言われる「週20時間以上」と「31日以上の雇用見込み」は、その第6条第1号と第2号をひっくり返した言い方です。
この記事の確認日は2026年9月16日です。
雇用保険の加入条件は「週20時間以上」と「31日以上の雇用見込み」の2つに集約されます
最初に、確かめた結果を一覧にしておきます。
| 論点 | 条文で確かめた内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 誰が被保険者か | 適用事業に雇用される労働者のうち、第6条各号に当たらない人 | 雇用保険法第4条第1項 |
| 労働時間の線 | 1週間の所定労働時間が20時間未満の人は適用しない | 雇用保険法第6条第1号 |
| 雇用期間の線 | 同一の事業主に継続して31日以上雇用される見込みがない人は適用しない | 雇用保険法第6条第2号 |
| 学生 | 厚生労働省令が定める学生・生徒は適用しない(例外あり) | 雇用保険法第6条第4号/施行規則第3条の2 |
| 65歳以上の特例 | 2つの事業所を合算して週20時間以上なら、申出により被保険者になれる | 雇用保険法第37条の5第1項 |
| 手続きをするのは誰か | 事業主。翌月10日までに資格取得届を出す | 雇用保険法第7条/施行規則第6条第1項 |
| 2028年10月から | 週所定労働時間の要件が「20時間以上」から「10時間以上」へ | 令和6年法律第26号(施行日=令和10年10月1日) |
この表の1行ずつを、以下で条文にあたって確かめていきます。
そもそも雇用保険は「入るかどうかを選べる」制度ではありません
加入条件を読む前に、前提を1つ確かめておきます。
ハローワークインターネットサービスは、雇用保険の性格を次のように説明しています。
雇用保険は政府が管掌する強制保険制度です。(労働者を雇用する事業は、原則として強制的に適用されます)
「強制保険」なので、条件を満たしているなら、本人が希望するかどうかとは関係なく被保険者になります。
「入りたくないので外してほしい」という申し出を根拠にする条文は、雇用保険法の中に見当たりませんでした。
雇用保険の加入条件は第4条と第6条の組み合わせで決まります
雇用保険法を最初から読むと、「加入条件」という言葉自体が出てきません。
代わりにあるのが、第4条の定義です。
この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者であつて、第六条各号に掲げる者以外のものをいう。
(出典:雇用保険法 第四条第一項)
読み方は「適用事業に雇用される労働者」から「第6条各号に当たる人」を引く、という引き算です。
「適用事業」の範囲は事実上すべての事業です
引き算の元になる「適用事業」も、第5条に定義があります。
この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。
(出典:雇用保険法 第五条第一項)
ここには規模の要件も、業種の限定もありません。
労働者を1人でも雇っていれば適用事業なので、「小さい会社だから雇用保険がない」という説明は、条文の側では支えられません。
第6条は「適用除外」という見出しです
第6条の柱書は、次の1文です。
次に掲げる者については、この法律は、適用しない。
(出典:雇用保険法 第六条)
この下に第1号から第6号までが並びます。
世間で「加入条件」と呼ばれているものの正体は、この6つの号の裏返しです。
雇用保険の加入条件その1=1週間の所定労働時間が20時間以上(第6条第1号)
いちばん有名な「週20時間」は、第6条第1号に書かれています。
一週間の所定労働時間が二十時間未満である者(第三十七条の五第一項の規定による申出をして高年齢被保険者となる者及びこの法律を適用することとした場合において第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)
(出典:雇用保険法 第六条第一号)
条文が書いているのは「20時間以上なら入る」ではありません。
「20時間未満は適用しない」という書き方です。
数えるのは「所定」労働時間です
条文の言葉は「所定労働時間」です。
つまり、実際に何時間働いたかではなく、労働契約であらかじめ決まっている時間で見ます。
残業をたくさんして結果的に週20時間を超えた月があっても、そこを根拠にする条文は第6条第1号にはありません。
逆に言えば、契約書の所定労働時間を週20時間以上で結んだ時点で、この号からは外れます。
カッコ書きの中に2つの例外が入っています
第1号のカッコの中には、除かれる人が2種類挙がっています。
1つ目が第37条の5第1項の申出をして高年齢被保険者となる人で、これは65歳以上のマルチジョブホルダーです。
2つ目が第43条第1項の日雇労働被保険者に当たることになる人です。
この2つに当たる人は、週20時間未満でも適用除外になりません。
雇用保険の加入条件その2=31日以上の雇用見込み(第6条第2号)
もう1つの線が、雇用期間です。
同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者
(出典:雇用保険法 第六条第二号)
ここも「31日以上働いたら入る」ではなく、「31日以上の見込みがない人は適用しない」という書き方です。
条文の言葉は「見込まれない」なので、判断するのは働き終わったあとではなく、雇い入れる時点です。
「1か月だけの契約だから雇用保険はない」と言われることがありますが、31日以上の見込みがあるかどうかが条文上の分かれ目になります。
週20時間と31日は、どちらか片方ではなく両方を見る必要があります。第1号と第2号は別々の号だからです。
学生が雇用保険の加入条件から外れる範囲は施行規則で決まっています
第6条第4号は、学校教育法の学校の学生・生徒を挙げています。
ただし、その具体的な範囲は法律ではなく厚生労働省令に投げられています。
投げられた先が雇用保険法施行規則第3条の2です。
法第六条第四号に規定する厚生労働省令で定める者は、次の各号に掲げる者以外の者とする。
(出典:雇用保険法施行規則 第三条の二)
「次の各号に掲げる者以外」という二重否定なので、各号に当てはまる学生は適用除外にならない=被保険者になり得る、という構造です。
その第1号が、卒業後もそのまま働き続ける人です。
卒業を予定している者であつて、適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業に雇用されることとなつているもの
(出典:雇用保険法施行規則 第三条の二第一号)
第2号が休学中の人、第3号が定時制の課程に在学する人です。
「学生だから雇用保険に入れない」と一律には言えず、休学中や定時制なら扱いが変わります。
65歳以上には雇用保険の加入条件を合算で満たす特例があります
第37条の2は、65歳以上の被保険者を「高年齢被保険者」と呼んでいます。
六十五歳以上の被保険者(第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者及び第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者を除く。)
(出典:雇用保険法 第三十七条の二第一項)
そのうえで第37条の5が、1つの職場では週20時間に届かない人のための入口を作っています。
次に掲げる要件のいずれにも該当する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出て、当該申出を行つた日から高年齢被保険者となることができる。
(出典:雇用保険法 第三十七条の五第一項)
この特例は、本人がハローワークに申し出て初めて動きます。ほかの加入条件と違い、事業主の届出を待つ形ではありません。
厚生労働省は、この制度と従来の要件の違いを次のように説明しています。
従来の雇用保険制度は、主たる事業所での労働条件が1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用されます。
同じページに、合算するときの要件も書かれています。
2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
合算できるのは2つの事業所までで、それぞれ週5時間以上20時間未満という幅が付いています。
季節労働と日雇いは雇用保険の加入条件そのものが別枠になります
第6条第3号は、季節的に雇用される人を挙げています。
季節的に雇用される者であつて、第三十八条第一項各号のいずれかに該当するもの
(出典:雇用保険法 第六条第三号)
その第38条第1項各号が、次の2つです。
四箇月以内の期間を定めて雇用される者(略)一週間の所定労働時間が二十時間以上であつて厚生労働大臣の定める時間数未満である者
(出典:雇用保険法 第三十八条第一項)
裏返すと、季節的な仕事でも4か月を超える期間で契約し、所定労働時間が基準を満たしていれば、短期雇用特例被保険者として扱われます。
日雇いのほうは、第42条が「日々雇用される者」と「三十日以内の期間を定めて雇用される者」を日雇労働者と定義し、第43条が日雇労働被保険者の要件を並べています。
つまり「短い仕事だから雇用保険と無縁」ではなく、受け皿となる別の被保険者区分が用意されている、というのが条文の作りです。
雇用保険の加入条件を満たしているのに手続きがされていないとき
届出をするのは働く本人ではありません。
雇用保険法第7条が、事業主に届出を義務づけています。
その期限を決めているのが施行規則第6条第1項です。
事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に係る被保険者となつたことについて、当該事実のあつた日の属する月の翌月十日までに、雇用保険被保険者資格取得届(略)をその事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。
(出典:雇用保険法施行規則 第六条第一項)
期限は「入社日の翌月10日まで」です。
本人からは「確認の請求」ができます
届出がされていないときのために、第8条があります。
被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。
(出典:雇用保険法 第八条)
条文の言葉は「いつでも」です。在職中でも、辞めたあとでも請求できる形になっています。
届出をしなかった事業主については、第83条に罰則が置かれています。
事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
(出典:雇用保険法 第八十三条)
その第1号に、第7条に違反して届出をしなかった場合が挙がっています。
雇用保険の加入条件は2028年10月に「週10時間以上」へ下がります
ここまでの「週20時間」には、期限が付いています。
2024年(令和6年)5月10日に成立した雇用保険法等の一部を改正する法律について、厚生労働省は次のように書いています。
雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間を「20時間以上」から「10時間以上」に変更し、適用対象を拡大する
同じ資料の施行期日の欄には、この適用拡大だけが別日付になると書かれています。
<施行期日>2028(令和10)年10月1日
2026年9月16日の時点で有効な条文は、まだ「二十時間未満」のままです。改正後の条文が動き出すのは施行日からです。
この改正の根拠ページは、厚生労働省の令和6年改正の案内に置かれています。
元の法律の内容は、令和6年雇用保険制度の改正内容について|厚生労働省から確認できます。
31日以上の雇用見込みのほうは、この改正の対象として資料に挙がっていませんでした。
雇用保険の加入条件と、健康保険・厚生年金の加入条件は別の法律です
「社会保険に入れる働き方」という言い方で、雇用保険と健康保険・厚生年金がひとまとめに語られることがあります。
しかし、根拠になる法律は別です。
健康保険のほうは、健康保険法第3条第1項第9号が短時間労働者の扱いを定めています。
一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。
(出典:健康保険法 第三条第一項第九号イ)
同じ「週20時間」という数字が出てきますが、条文は別の法律にあり、前後に付いている条件も同じではありません。
健康保険法第3条第1項第9号は、この20時間のほかに報酬の額と学生かどうかもイ・ロ・ハとして並べています。
雇用保険の加入条件を調べるときに健康保険の解説を読んでも答えが合わないのは、条文がそもそも別だからです。
第6条には船員と公務員の号もあります
第6条の第5号は、漁船に乗り組むために雇用される船員を挙げています。
第6号は、国・都道府県・市町村などの事業に雇用される人のうち、離職したときに受け取る給与の内容が求職者給付などを超えると認められる人です。
その具体的な範囲は、雇用保険法施行規則第4条に置かれています。
この2つの号は働く時間とは関係がないので、週20時間・31日の話だけで判断すると読み落とします。
この記事で確かめた雇用保険の加入条件
- 雇用保険法に「加入条件」という条文はなく、第4条の定義から第6条の適用除外を引く形で決まる。
- 週20時間の線は第6条第1号で、書き方は「一週間の所定労働時間が二十時間未満である者」を適用しない、という除外。
- 31日の線は第6条第2号で、判断するのは実績ではなく「見込み」。
- 学生の範囲は施行規則第3条の2にあり、卒業後も働き続ける人・休学中の人・定時制の人は除外されない。
- 65歳以上は第37条の5により、2つの事業所を合算して週20時間以上なら申出で被保険者になれる。
- 季節労働は第38条、日雇いは第42条・第43条という別の被保険者区分が用意されている。
- 届出は事業主の義務で、期限は入社日の翌月10日(施行規則第6条第1項)。本人は第8条でいつでも確認を請求できる。
- 週所定労働時間の要件は、令和6年法律第26号により2028年10月1日から「10時間以上」へ変わる。
この記事は2026年9月16日に、e-Gov法令検索の本文と厚生労働省・ハローワークインターネットサービスの公表資料を開いて確かめた内容だけで書いています。
個別の契約が条件を満たすかどうかの判断は、最寄りのハローワークの雇用保険窓口で確認してください。
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